われわれは,これまでに神経変性疾患の原因変異を同定し,その変異から病態機序を解明する研究を行ってきた.これまでに家族性ALSの新規原因遺伝子optineurinや家族性脊髄小脳変性症の原因遺伝子CACNA1G,Perrault症候群の新規原因遺伝子C10orf2などを同定してきた.本研究の目的は,Perrault症候群の新規原因遺伝子として同定したC10orf2の変異がミトコンドリアDNAの維持機構を障害し,神経細胞死にいたる過程を培養細胞レベルで再現することである.iPS細胞を樹立する際にミトコンドリアDNAの異常が初期化されることを利用して,患者由来iPS細胞を小脳プルキンエ細胞に分化させることで,実際の神経細胞内でミトコンドリアDNA異常が蓄積されていく様子を経時的に観察する.ミトコンドリアDNA異常は老化の観点からも重要であり,本研究の成果を応用することで,培養細胞での老化の評価を行うことができる可能性もある. 患者から提供していただいた皮膚から得られた線維芽細胞を用いてiPS細胞を樹立し,コントロールとして正常対照者から得られたiPS細胞も樹立した.これらの中からミトコンドリアDNA異常の少ない細胞株を得るためにPCRや次世代シーケンサなどを用いて変異を定量した.iPS細胞を樹立する段階でミトコンドリアDNAに生じるボトルネック効果を利用して変異がきわめて少ない細胞株が得られた.これを用いてFGF2などの成長因子を加えて神経細胞への分化誘導を行い,C10orf2の変異によりミトコンドリアDNA異常の蓄積が見られるかどうかを検討した. 研究全体を通してiPS細胞を樹立することによってミトコンドリアの異常を最小化する細胞株が得られることが確認され,ミトコンドリアDNA複製に関与する遺伝子の異常によってミトコンドリアDNA異常が蓄積されることが示された.
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