研究課題/領域番号 |
15K15084
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
佐々木 卓也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (40241278)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん浸潤・転移 / 集団的浸潤 / Rab13 / JRAB / 構造変化 |
研究実績の概要 |
肺がんや乳がん等の一部のがん細胞では、上皮間葉転換を起こすことなく1つの集団を形成してまとまって浸潤する集団的浸潤が観察され、予後や悪性度といった点から注目を集めている。この集団的浸潤においては、複数の細胞が統率のとれた集団として振る舞うことを可能とする何らかの「秩序と法則性」が存在し、それらは様々な細胞外環境の変化に対応できる可塑性を有するものであると予想される。これまで、研究代表者は、Rab低分子量Gタンパク質のメンバーのひとつであるRab13の標的蛋白質としてJRABを見出しており、JRABが上皮細胞における細胞間接着分子の輸送とアクチン細胞骨格の再編成を制御することを明らかにしてきた。本研究では、このJRABという1分子の構造変化が集団的浸潤で認められる「秩序と法則性」を生み出す本体であるという仮説を証明し、JRABの構造解析によって得られた成果を基に構造変化を感知できる抗体や構造変化を阻害するペプチドを作製して、がんの診断や治療への応用を目指す。本年度は、まずバイオインフォマティクスと生化学の融合研究により、JRABのRab13依存的な構造変化を証明することができた。また、JRABのFRETプローブを用いて生細胞におけるJRABの構造の時空間変化を証明することができた。さらに、上皮細胞株にJRABの構造変異体を発現させ、創傷治癒アッセイを行って得られたライブイメージングの動画をもとにコンピュータサイエンスの手法により各変異体のライブイメージング像の特徴を抽出して定量化することに成功した。また、各々の細胞集団においてバイオメカニクスの手法を用いた力学的解析を行った。それらの結果としてJRABの構造の可塑性が効率の良い集団的細胞運動を可能にする秩序と法則性を生み出すことを証明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの本研究期間においては、下記の成果を得ている。 (1) JRABのRab13依存的な構造変化モデルの完成:医薬基盤研の水口賢司博士のグループとの共同研究で、in silicoの立体構造モデリングの各過程で、生化学的実験を行うことでモデリングの検証・修正という作業を繰り返し、Rab13-JRAB複合体の構造モデリングを完成させた。その結果、JRABの立体構造におけるRab13の結合領域が明らかになるとともに、JRABの分子内結合がRab13との相互作用により解除されて構造変化(closed formからopen form)が引き起こされることを証明することができた。 (2)細胞集団内でのJRABの時空間構造変化の証明:JRABのN末端側とC末端側の結合・非結合を感知することで、open formとclosed form間の構造変化を捉えることができるJRABのFRETプローブを用い、集団的細胞運動においてJRABの構造の時空間変化が起こっていることを証明した。 (3)細胞集団におけるJRABの構造変化が生み出す秩序・法則性の証明:上皮細胞株にJRABがopen formやclosed formに固定された変異体を発現させ、創傷治癒アッセイを行って得られたライブイメージングの動画をもとに理化学研究所の横田秀夫博士のグループとの共同研究で、コンピュータサイエンスの手法により各変異体のライブイメージング像の特徴を抽出して定量化を行った。さらに、大阪大学の出口真次教授との共同研究で、バイオメカニクスの手法を用いた力学的解析を行った。それらの結果から、JRABの構造変化が細胞集団局所での方向性や速度、さらには細胞集団の先頭で生み出される牽引力を調節しており、JRABの構造の可塑性が効率の良い集団的細胞運動を可能にする秩序と法則性を生み出していることを証明した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、上記のように上皮細胞株を用いてRab13に依存したJRABの構造変化が細胞集団移動において生み出す秩序と法則性を明らかにすることができたが、今後は、それらの研究成果をもとに個体レベルでの解析を進めていく。現在、マウスを用いた肺がん転移実験を行い、個体レベルでのJRABの構造変化のがん転移への関与を明らかにすることを試みている。すでにレンチウイルス発現系を用いて構造変異体を発現した肺がん細胞株の作製に成功しており、予備的解析を開始している。また、本年度は、生化学とバイオインフォマティクスを融合した手法を用いてJRABとRab13の複合体の分子モデリングに成功し、極めて正確なRab13との結合に依存したJRABの構造変化モデルを提示することができた。今後は、さらに、これまでに研究代表者が見出しているJRABの構造特異的に結合する分子群とJRABの複合体の構造解析を生化学およびバイオインフォマティクスの手法に加えてNMR、X線小角散乱といった構造生物学的手法を駆使したアプローチで展開し、その成果をJRABの構造変化を感知する(あるいは阻害する)抗体の作製に繋げる。さらに、JRABの構造変化を引き起こす上流シグナルを明らかにするために、これまでの解析で作製に成功しているJRABの構造変化を感知できるFRETプローブを用いたスクリーニング系を確立し、最終的には、JRABの構造変化の制御因子(阻害および促進)の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究において結果の如何によって異なった追加実験を必要とする可能性があったため、その試薬購入を待っていたが、結果が出るのが遅れ、その費用が残額として持ち越された。
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次年度使用額の使用計画 |
その後、3月末に得られた共同研究の成果に従って、4月中に行う追加実験で全額使用する予定である。
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