研究課題/領域番号 |
15K15087
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
森下 和広 宮崎大学, 医学部, 教授 (80260321)
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研究分担者 |
中畑 新吾 宮崎大学, 医学部, 助教 (80437938)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / 成人T細胞白血病 / HTLV-1 |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病(ATL)は、HTLV-1感染に起因した極めて予後不良な末梢性T細胞腫瘍で、日本国内にも宮崎を含む九州地方を中心に約108万人のウイルス保持者(キャリア)が存在している。腸内細菌叢の異常は、宿主の免疫機能の調節に密接に関わっており、ATLの病態の一つである免疫機能の低下との関連が示唆されるが、ATL患者の腸内細菌叢についての解析は未だなされていない。 本研究では、腸内細菌叢をターゲットにATL発症の予防、診断、治療法開発を目的に、キャリアおよびATL各病型の腸内細菌叢を解析し、ATLに特徴的な腸内細菌群およびその機能を解明する。これまでに、急性型ATL患者9症例および皮膚病変を持つくすぶり型ATL1症例の糞便を採取し、新鮮糞便を用いて細菌ゲノムDNAを抽出した。このうちの6例および健常者5例の糞便細菌DNAを用いて菌叢解析を実施した。方法として、16SrRNA DNAのV3-4領域をPCR増幅し、次世代シーケンシングにより配列データを収集した。OTUを作成後、参照データベースとして、16S Microbial、SilvaLTP123等を使用して相同性検索を行った。 その結果、抽出したOTU数は約200菌種であったが、ATL患者群にのみ存在する細菌を7種同定した。そのうちの1種はATL患者の全症例において優位に存在しており、また解析した健常者の糞便中には検出されなかったことから、ATLの病態との関連が示唆され、今後さらに症例数を増やし、その統計学的有意性等の評価を行う予定である。現在、クラスタリング解析やPCoA解析等を進めており、得られたデータのより詳細な検討を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに宮崎大学付属病院にて急性型ATL患者9例、くすぶり型ATL患者1例、および宮崎県在住の健常者11例の糞便を採取し、細菌ゲノムDNAを抽出した。このうちATL患者6例および健常者5例の糞便DNAを用いて16S rRNA遺伝子による腸内細菌叢解析を行い、その結果、以下のpreliminary な知見が得られた。1)ATL患者と健常者間で、腸内細菌叢の多様性における差は見られなかった。2)健常者には見られない7種類の腸内細菌がATL患者の3割以上の症例で検出された。3)その中で、ATL患者の全例に存在する菌種を同定した。 本プロジェクトのマイルストーンとして、健常者、キャリア、各種ATL患者それぞれの群で20例の計100例を目標に、最初の2年で約半数の症例の解析を終了し、ATL患者の腸内細菌の特徴の傾向を把握する。1年目において、健常者、急性型の検体については、ほぼ当初の計画通りに検体収集を行うことができたが、その他の病型については、ほとんど解析できておらず、2年目にこれらを主として検体収集を行う。しかしながら、今回の解析でATLの発症に関わることが示唆される腸内細菌種を単離することができ、本研究の成果および進展が期待できるものであることを示唆しており、今後、より精度の高いデータの解析・評価を行っていき、ATL発症の分子機構の解明および発症予防・診断・治療への応用に繋げていきたい。 現在は、ATL患者と健常者の腸内細菌叢の差異について、菌種組成などの統計学的な検討を進めており、ATL患者の腸内細菌叢の大まかな傾向を明らかにできるものと推測される。また、同定した腸内細菌の候補については、それらの機能に関する検討も進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、ATLの病態に関連することが示唆される腸内細菌を同定し、キャリアやATL各病型での比較など、さらにデータを収集することにより、ATLの発症予防や患者の治療に有用なバイオマーカーが明らかになるものと期待される。 次年度は、キャリア、くすぶり・慢性型ATLのそれぞれ10例を目標に検体収集し、これまでと同様に菌叢解析を行う。また、同定した候補細菌がキャリアの発症リスク因子となる可能性があり、高リスク要因として知られるHTLV-1ウイルス量との比較や、宮崎などATLの流行地域におけるその腸内細菌の疫学的な分布、家族性因子としての検討などの解析が重要になるものと思われる。ATL患者では、急性転化や患者の予後との関連について調べ、病態予測のマーカーとしての可能性についても進めていく予定である。 これらの検討とともに、いかにして腸内細菌叢がATLの発症機構や分子病態に関わるかを明らかにすることも重要で、細菌のもつ多糖類がCD4+T細胞の活性化を促すことや、ATL細胞と相同な機能をもつ制御性T細胞の活性化に腸内細菌が関わることが知られており、ATLの病態に関わる可能性は高い。in vitro でキャリアから分離したHTLV-1感染Tリンパ球にある種の細菌の多糖類で処理し、リンパ球の活性化や増殖などを調べていくことや、無菌マウスにATL患者または健常者の便を投与し、ATLのモデルマウスHBZ Tgの白血病細胞をこれらに移植し、白血病の発症や宿主マウスの免疫系の機能などの検討を行うことも有効と考えられる。また、よりATLの病態に近いHBZ Tg/NDRG2 KOマウスを用いて、経時的に腸内細菌叢を解析し、ATL患者の腸内細菌叢との比較や、免疫系の機能的な変化について調べていくことで、ATL発症における腸内細菌の役割の解明に繋げられるものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンスを行う検体数が少なかったため、それに要する金額が残ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に収集する検体数を増やし、その分を本年度に使用する予定である。
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