研究課題
血管内皮最長因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF)シグナルの血管新生における重要性は、これまでの多くの基礎研究により確立されており、既に臨床の場においてVEGF阻害による抗血管新生療法が、有意な制がん効果を有するということも判明している。しかしながらその延命効果については、がんの種類によっては極めて限定的であり、マウスなどの動物実験における結果と比較すると、VEGF阻害の効果はかなり軽微なものと言える。さらには、脳出血・消化管出血などの副作用も強く、これまで十分に解析されてこなかった、in vivoにおけるVEGFシグナルの血管内皮細胞に対する影響について、最新のgenetic toolを駆使して再度解析しなおす必要があると考えられる。これを背景に、本研究における中心的なプロジェクトとして、当研究室の作成した新規タモキシフェン誘導性血管内皮特異的Creマウスと、血管新生に必須の受容体であり、VEGFのメイン受容体であるVEGFR2のfloxマウスとの交配する。得られたマウスを用いて、出生後血管内皮VEGFR2をノックアウトし、その血管形成の変化を、最新の可視化テクノロジーを駆使して、徹底的な形態学的観察が行われている。当該変異マウスのこれまでの解析結果により、血管の新たな成長の停止だけではなく、既存血管の密度の著しい減少、つまり安定化した後の血管の退縮も著明であった。これはVEGFR2シグナルが血管成長だけではなく、成熟した血管の安定性の維持にも機能していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
1まず、タモキシフェン誘導性血管内皮特異的VEGFR2ノックアウトマウスに対し、生後1日目からタモキシフェン投与を行ったところ、生後6日目網膜において、血管形成が全く見られなかった。この結果は、他の類似のタモキシフェン誘導性血管特異的CreラインにおけるVEGFR2のノックアウトで得られた表現型に比べて、明らかにシビアな表現型であり、網膜血管形成において血管内皮細胞におけるVEGFR2シグナルが極めて重要であることが示されるとともに、類似のマウスより遥かに効率よく血管内皮で遺伝子をノックアウトできることが示された。次に、生後3日目からのタモキシフェン投与に変更し、既に完成した血管網に対するVEGFR2欠損の影響を調べた。その結果、血管が生後3日目以降成長しないばかりか、既存血管の密度の著しい減少、つまり安定化した後の血管の退縮も見られた。これは成熟血管内皮細胞に対して、VEGFR2シグナルがその安定性の維持に機能していることを示唆している。また、無血管領域のアストロサイトのみで発現するとされるVEGFの発現をより詳細にin situ hybridizationで解析した結果、アストロサイトだけではなく、神経からもVEGFが発現することを見出した。興味深いことに、神経におけるVEGFの発現は、血管が張り巡らされた場所でも見られ、アストロサイト由来VEGFとは異なる役割を有することが示唆された。これらの結果は神経由来VEGFの成熟血管の安定性への寄与を示唆するものであり、今後の研究を展開する上で重要な指標となっている。上記の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
1上記のこれまでの研究成果を踏まえたうえで、今後の研究の展開としてはリガンド側、VEGFの発現の欠損の影響についてコンディショナルノックアウトマウスを用いて検討する。上述のように網膜におけるVEGFの発現細胞は、主にグリア細胞の一種であるアストロサイトであるのはよく知られている。アストロサイト由来のVEGFは低酸素依存性に発現し、血管が到達するとその発現は抑えられる。この濃度勾配により、網膜血管は一方向性の(無血管領域への)成長が可能となるとされる。またTip細胞の発芽も、このアストロサイト由来VEGFに依存するとされている。本年度の研究では、神経特異的にVEGFをノックアウトしたマウスであるChx10-Cre+Vegfaflox/floxマウスに関し、その網膜血管の表現型を形態学的に観察する。そのパラメーターとして、Tip細胞および糸状仮足の数、BrdUの取り込みにより、いわゆる血管新生の程度を、またCollagen IV(ColIV)/ IsolectinB4(iB4) 染色により血管の安定性についても検討する。ColIV陽性iB4陰性のempty sleeve(そこに血管があったが退縮したことを示す構造物)が増加している場合、血管の安定化不全が存在することが示される。以上の研究と昨年度までのタモキシフェン誘導性血管内皮特異的VEGFR2ノックアウトマウスの結果を合わせて考えることにより、発生期網膜血管形成過程において、神経由来のVEGFがVEGFR2のシグナルを介して、血管成熟を正に制御しているかどうかを検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://www.keiovascular.com/