研究課題/領域番号 |
15K15093
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
荒川 博文 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (70313088)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | リソソーム / ミトコンドリア / タンパク質分解 / 酸化タンパク質 / 品質管理 / 酸化ストレス / 活性酸素種 / p53 |
研究実績の概要 |
不良なミトコンドリアの蓄積は、ミトコンドリアの機能不全を引き起こし、老化、がん、神経変性疾患、循環器疾患などの原因となり得る。我々はMieap蛋白質が、ミトコンドリアの構造破壊を伴わないミトコンドリア内へのリソソームタンパク質集積(MALM: Mieap-induced Accumulation of Lysosome-like organelles within Mitochondria)を誘導しミトコンドリア内酸化タンパク質を除去するか、細胞内に巨大な液胞様構造物(MIV: Mieap-induced vacuole)を形成し不良なミトコンドリアを丸ごと飲み込んで分解排除するかのいずれかの機能で、ミトコンドリアの品質管理に極めて重要な役割を果たしている可能性を発見した。この研究の目的は、これまでのリソソームの働き、ミトコンドリア内蛋白質分解、ミトコンドリア分解についての教科書の内容を大きく書き換え、これまでに取り残されてきた未知の研究領域を開拓し、細胞生物学におけるパラダイムシフトをおこすことにある。平成27年度における重要な成果は、GFP-MieapとMitotracker-redを用いたMALM及びMIVのライブイメージングを試み、生細胞におけるMALM及びMIVの形成過程の可視化に成功した点である。GFP-Mieapの一過性過剰発現系において、遺伝子導入後12時間よりまずはミトコンドリア全体にMieapの局在を認めるMALM様の現象を観察した。その後、Mieapの発現タンパク質量の増加とともに、ミトコンドリアを発生起源とするMIVの形成を遺伝子導入後24時間から観察できた。MIVはミトコンドリアを取り込み分解しながらそれぞれが融合し、最終的にすべてのミトコンドリアを取り込んで分解除去した。MALMとMIVはそれぞれが密接に関係している可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A)ミトコンドリア内リソソーム存在の形態学的証明 Mieapノックアウトマウスを用いて、WT及びMieap KOマウスの心臓・肝臓・腎尿細管・胃壁細胞などのMieap高発現臓器・組織の電子顕微鏡観察を行った。Mieap KOマウスに対して、WTマウスで有意に認められるミトコンドリア内リソソーム様構造物は今のところ認められない。Mieap欠損大腸がんモデルマウス及び胃がんモデルマウスに発生した腫瘍と正常組織をMieap正常型マウスの組織と比較検討したが、Mieap正常型に有意に認められるミトコンドリア内リソソーム様構造物は今のところ認められない。これらの結果は、これまでのがん細胞株におけるControl細胞株とMieapノックダウン細胞株の電子顕微鏡解析の結果と同様の結果であった。
(B)ミトコンドリア内リソソーム存在の生化学的証明 Mieapタンパク質をGFPタンパク質に融合させ、GFP-Mieapタンパク質発現ベクターを構築し、Mieapタンパク質(緑)の可視化を試みた。ミトコンドリアをMitotracker-red(赤)で可視化して、時間経過を追ってMALM及びMIVの形成過程を観察したところ、遺伝子導入後12時間後からミトコンドリア全体にGFP-Mieapのシグナルを認め、MALM様の現象を観察した。その後、24時間から48時間にかけて、Mieapの発現タンパク質量の増加とともに、ミトコンドリアを発生起源としてMIVの形成が観察された。MIVはミトコンドリアを取り込み分解しながらそれぞれが融合し、最終的にすべてのミトコンドリアを取り込んで分解除去した。
|
今後の研究の推進方策 |
(A)ミトコンドリア内リソソーム存在の形態学的証明 引き続き、細胞株及び組織を用いた電子顕微鏡解析を継続する。マウス検体に加えて、臨床がん組織及び正常組織の電子顕微鏡解析を考慮する。ヒト検体を用いた解析については、国立がん研究センター倫理審査委員会の承認を受けた研究計画の下に進めることを前提とする。細胞株及び組織を用いた免疫電子顕微鏡解析を進め、形態とタンパク質存在との関係を検討する。
(B)ミトコンドリア内リソソーム存在の生化学的証明 GFP-Mieapの一過性過剰発現系のイメージング解析の結果から、MALMとMIVは独立して発生しているのではなく、まずはミトコンドリア全体にMALMが発生して、それに続く形で、そのミトコンドリアを発生起源としてMIVが発生する可能性が明らかとなった。MIVは最初ミトコンドリアの各所で小規模に発生するが、やがてミトコンドリアを取り込み分解しながら、それぞれが融合し、巨大なMIVとなって細胞内のほぼすべてのミトコンドリアが分解除去されることが観察された。MALMを理解する上で極めて重要な知見であり、今後はGFP-Mieapとリソソームタンパク質との関係を、発光タンパク質とLAMP1やCathepsin Dなどのリソソームタンパク質との融合タンパク質発現ベクターを構築使用して、生細胞のイメージング解析を優先的に続ける。 細胞株及び組織を用いてMALM発生時のミトコンドリアを純度高く精製し、網羅的なプロテオミクス解析を行う。ミトコンドリア内へのリソソームタンパク質の検出を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はイメージング解析で期待以上の良い成果が挙がったため、イメージング解析を優先的に推進したことから、今年度予定していた網羅的プロテオミクス解析が次年度に持ち越すことになったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
細胞株及び組織を用いた網羅的プロテオミクス解析(2DICAL法)を行う。
|