最終年度の研究成果 ①昨年度iPLA2θにリゾPCを供給する上流酵素としてiPLA2γ(PNPLA8)を見出したが、この酵素の欠損マウスもiPLA2θ欠損マウスと同様に痩せ型となり、肝臓においてコリン-メチオニン代謝関連の一連の化合物が減少していた。一方、メチオニン回路を構成する主要代謝酵素群の発現は上昇したことから、代償機構が存在すると考えられた。②肝臓においてiPLA2θ下流に位置して、グリセロホスホコリンからコリンを生成するグリセロリン酸ジエステルホスホジエステラーゼ(GDE)を同定し、CRISPR/Cas9システムを利用して欠損マウスを作製した。③iPLA2θの肝臓ではFGF21の発現と分泌の増加が生じ、これが白色脂肪組織の褐色化の一因を担うと考えられた。④iPLA2θ欠損マウス由来の初代培養肝細胞においてもFGF21の発現と分泌の増加が再現され、培養液中にメチオニンとコリンを過剰量添加することでFGF21の発現が正常レベルに戻ることを見出した。⑤多系統萎縮症患者においてiPLA2θの遺伝子多型との相関関係が示唆された。
期間全体の研究成果 肝臓において膜リン脂質からコリンを取り出す内因性コリン代謝経路の分子的実体としてiPLA2γ→iPLA2θ→GDEという酵素群を見出し、この代謝経路がコリン産生のみならず、肝臓におけるメチオニン再生や肝機能にも関わることを明らかとした。またiPLA2θの欠損により広範囲の脳の萎縮を伴う神経変性や白色脂肪組織の褐色化が起きることから、神経細胞の生存やエネルギー代謝においても我々が同定した内因性コリン産生経路が極めて重要な役割を持つことが分かった。
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