研究課題/領域番号 |
15K15098
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
常山 幸一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (10293341)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 質量分析 / イメージング / 化学物質 / 自己免疫疾患 / 原発性胆汁性肝硬変 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
私たちは多くの化学物質に日々囲まれて生活しているが、これらの曝露が生体にどのような影響を与えるかは完全にはわかっていない。我々は自己免疫疾患の発症要因の1つとして、化学物質への長期暴露に注目している。これまで、原発性胆汁性肝硬変(PBC)に出現する自己抗体(抗ミトコンドリア抗体)が、食品添加物に含まれる数種類の化学物質と反応する事を見出し、その1つである2オクチン酸(2OA)の投与により、マウスに抗ミトコンドリア抗体の出現と特異的な胆管障害像といったヒトPBCに類似する病態が発症する事を報告した(Hepatology. 2008, 48(2):531-40.)。このモデルの胆管障害機序として、2OAの胆管への蓄積とそれを標的とする細胞性免疫の関与が推測される。本研究では、生体組織中に蓄積した化学物質の局在をナノ粒子補助によるイメージング質量分析(Nano-PALDI IMS法)で個細胞レベルで明らかにし、化学物質を取り巻く周囲微小環境との相関解析を可能とする新たな評価系の確立を目指す。本年度は、まず、Nano-PALDI IMS法により、組織標本上の2OAの局在を高解像度で解析する新しい解析法を確立した。Cr, Mn, Fe, Coの酸化物をコアとした種々のナノ粒子を作製し、2-オクチン酸各物質に最適なナノ粒子を選択した。次に、2OAの標品を凍結マウス肝薄切標本に滴下し、実験1で選択したナノ粒子を噴霧してコーティングし、Nano-PALDI IMS法による描出が可能かどうか検討した。2OA誘導PBCモデル動物を用いて、肝組織中の2OAを質量分析で検出するための条件を設定した。さらに、2OAを腹腔内に頻回投与して作製したPBCモデルマウスの肝臓をサンプルとし、組織標本中でのNano-PALDI IMS法の条件を設定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はマトリックスの代わりにナノ粒子をイオン化支援剤に使うNano-PALDI法に注目し、同法を用いて組織標本上の化学物質の局在を解析する新しいイメージング技術の確立を目指すものであり、研究期間内に、次にあげる4項目の検討を目指している。①「目標とする化合物に最適なナノ粒子の選択方法」を確立し、さらに当該ナノ粒子を用いて②「組織中の低分子化合物をNano-PALDIイメージング質量分析で検出するための条件」を確立する。次に、疾患との関連性が指摘されている種々の低分子化合物を正常肝に添加して③「種々の低分子化合物がNano-PALDIイメージング質量分析 (IMS)で検出可能か」を検討する。最後に、④各種ヒト疾患の凍結組織標本を用いて、病変部にどのような化学物質が蓄積しているかを網羅的に検討する。以上の項目のうち、①、②においてはγ-Fe2O3の使用により2OAが良好にイオン化することを見出し、同粒子を用いて凍結肝組織中で2OAのイメージングにも成功した(学会発表済み、英文論文投稿中)。さらに、③の検討の手始めとして、2OA投与による原発性胆汁性肝硬変(PBC)モデル動物の作製に取り組み、形態的にも、血清学的にもPBCに類似するモデル動物の作製に成功した。これらモデル動物の肝臓を用いてNano-PALDI IMSによる2OAのイメージングを試行し、その描出に成功した。より高感度の解析が可能な機器を用いた再検討では、2OAは肝実質よりも門脈域により多く蓄積していることがわかった。PBCは胆管が特異的に破壊される疾患であり、胆管は門脈域に存在していることから、2OAの蓄積部位はPBCの病態を説明しうる所見と考えられた(学会発表済み、英文論文作製中)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、2OAの臓器内での局在を非常に高い感度で可視化することに成功した。しかしながら、今回見出したナノ粒子が他の化合物も有効にイオン化できるのかどうかは未だ不明である。今後は、まず、2OA以外の低分子化合物を可視化できるかを検討する。異なる5種類の低分子化合物(アクリル酸、メタクリル酸など)を対象とし、凍結肝組織上にそれらの物質を添加して、種々のイオン化支援ナノ粒子を用いてNano-PALDI IMSを施行し、それぞれに化合物に最適なナノ粒子を選択する。次に、それらの化学物質をモデル動物の腹腔内に投与し、一定期間の後に肝臓を用いてNano-PALDI IMSを施行し、肝臓への移行、分布の有無を検討する。5種類ともにイメージングが成功した場合、作成・準備したナノ粒子が広範な低分子化学物質をイオン化できる可能性が高いと解釈できる。イオン化が不可能な物質が見つかった場合、ナノ粒子を再度探索し、ナノ粒子のラインアップに加える。これらの動物実験と並行して、前述のPBCや薬剤性肝障害、或いは化学物質過敏症、など、化学物質と疾患との相関がある程度指摘されているヒト疾患の凍結標本(病理解剖標本)を収集する。これまでの条件検討に基づいて、いくつかのイオン化支援ナノ粒子を用いてNano-PALDI IMSを施行し、標的とする化学物質のイメージングを試みる。ただし、ヒトの場合は化学物質の曝露期間や曝露量がまちまちであると推測される。実験の可否を判断するには、多数例での検討が必要となると考えられ、広い範囲から継続して標本を収集する体制づくりも検討する必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定よりもイオン化効率に優れたナノ粒子を作製することに成功したため、動物実験で得られた肝組織のイメージング結果が良好な結果となり、くり返しの試行を想定していた予算額より大幅に消耗品費が減弱した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は数種類の動物実験を計画しており、実験動物の確保や飼育、解析等に適切に使用する。
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