本研究では、液状化検体細胞診(LBC)検体を用いて子宮頸部のがん化に関与する遺伝子の増幅をリアルタイムPCRにより検出する方法が細胞診スクリーニングの補助的検査法となる可能性を探ることを目的とした。 組織診検体などで主にFISHを用いた研究により増幅が報告されている遺伝子であるEGFRやc-mycなど8つの遺伝子について、その増幅を特異的に検出できるようデザインしたプライマーを用いたリアルタイムPCR(SYBR Green法)により、検量線を用いた相対定量法を確立した。細胞株や健常人末梢血由来DNAを用いた基礎検討を行い、再現性をもって遺伝子増幅の検出ができることを確認した(平成27年度)。 平成28年度、TERT遺伝子についてLBC検体における増幅の検討を行った。「リファレンスDNAのターゲット遺伝子(TERT)/ 内在性コントロール遺伝子(ALB)比」を基準値としたときに2倍以上の増幅がみられたのは、陰性11例中4例(36%)、LSIL(CIN1)38例中8例(21%)、HSIL(CIN3)5例中1例(20%)、SCC4例中3例(75%)。陰性例での遺伝子増幅という結果は、増幅が論文にて報告されているようながんにおける体細胞変異、つまりcopy number alteration (CNA) ではなく、コピー数多型 (Copy Number Variation: CNV)によるものであることを示すと考えられた。また、異形成から頸癌への移行につれて増幅を示す症例数が増えるわけではないこともわかった。CIN3からSCCのlate eventにおいて「がんに移行しやすい体質」としてCNVが関与する可能性はあるが、検討した症例数が少なく断定はできない。LBC検体を用いた子宮頸部の異形成から頸癌への移行の予測には、本法による遺伝子増幅の検出は現実的ではないと考えられた。
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