研究課題
組織多様性(ヘテロジェナイティー)を伴うがんは、治療標的が絞りにくく難治性である。治療効果の向上には、ヘテロジェナイティー獲得機序の解明およびその解除が不可欠である。近年、我々はシグナル伝達アダプター分子CrkI/CrkIIが、下流シグナル分子を巧妙に使い分け、がん幹細胞と上皮間葉移行(EMT)の2つの異なる細胞動態、つまりヘテロジェナイティーを創出することを見出した。本研究の目的は、CrkI/CrkIIの機能の相違に基づくがんのヘテロジェナイティー創出メカニズムを明らかにし、それを解除する治療薬を探索するモデルシステムを構築することである。これにより、これまで全く未知であったアダプター分子によるがんのヘテロジェナイティー形成機序を解明すると共に、Crkによるがん幹細胞誘導を抑制する薬剤のスクリーニングシステムを独自に開発し、がんの治療反応性を画期的に向上させるシーズ分子の同定に挑戦する。当該年度は、昨今、腫瘍の転移・浸潤との関連性が注目されているエクソソームに着目し、Crkがエクソソームの形成、内包物の組成、マウスxenograftにおける腫瘍の浸潤(EMT)やヘテロジェナイティー、および転移能力に及ぼす影響を解析した。
2: おおむね順調に進展している
近年、バイオマーカーや細胞間コミュニケーションツールとしてエクソソームが注目されている。エクソソームは細胞から分泌された脂質二重膜で形成される微小な細胞外小胞である。内部には様々なタンパク質や核酸物質が含有されており、細胞間の情報伝達や癌の転移先の微小環境の調整など、癌の浸潤・転移において重要な役割を担っている。当該年度は、エクソソームが制御する膀胱癌の浸潤・転移機構において、Crkがエクソソームの形成、内包物の組成、マウスxenograftにおける腫瘍の浸潤(EMT)やヘテロジェナイティ、および転移巣形成能力に及ぼす影響を解析した。ヒト浸潤性膀胱癌細胞株(UM-UC-3)を用いて、shRNAによりCrkノックダウン細胞株を樹立した。親株のUM-UC-3細胞と比較して、Crkノックダウン細胞は、細胞・エクソソームレベルともにErbB2のタンパク量が低下した。さらに、親株のエクソソームをレシピエント細胞(血管内皮細胞、非浸潤性膀胱癌細胞株)に投与すると、レシピエント細胞内のErbB2の発現量が増加し、増殖能や浸潤能が亢進した。一方、Crkノックダウン細胞由来のエクソソームを投与するとそれらの上昇は認められなかった。これらの結果から、Crkはエクソソーム内でのErbB2の発現量を増加させ、転移先臓器においてレシピエント細胞(血管内皮細胞)に取り込まれ、組織を予め教育(education)することにより、腫瘍の浸潤や転移が促進されることが示唆された。
【1. Crkによる幹細胞誘導を解除する治療薬剤リード化合物の探索】:Crkによって制御されるがん幹細胞誘導およびヘテロジェナイティーを解除する治療薬を創出するため、治療薬剤リード化合物の探索を行う。1) 1分子特異的シグナル阻害剤のスクリーニング:当該スクリーニングには、我々が独自に開発した1遺伝子発現に由来する特異的シグナルの抑制効果評価系を用いる。CrkI-tdTomato、CrkII-GFPを過剰発現させた腫瘍細胞に薬剤を添加し、蛍光が消失する化合物を選択する。その後、不死化正常細胞にホタルルシフェラーゼを、CrkI-tdTomatoおよびCrkII-GFP過剰発現細胞にウミシイタケルシフェラーゼを導入、薬剤添加下で共培養し、両者のルシフェラーゼ活性を測定することにより、CrkI/CrkII過剰発現細胞に対する抗腫瘍効果が高く且つ副作用が低い薬剤を選択する。選択された候補薬剤に対しては、Sox2発現やヘテロジェナイティーが消失するかも検討する。2) 分子構造に基づくin silico分子設計法:上記1)による候補薬剤は、in silico分子設計によりCrkI/CrkIIとの結合領域を確定する。【2.腫瘍ヘテロジェナイティーの解除から治療耐性能の解除へ】上記で得られた候補薬剤については、細胞レベルでその効果を検証すると共に、マウスxenograft腫瘍において、がん幹細胞およびヘテロジェナイティーが解除され、治療感受性が回復するかを検討する。接種細胞は予めtdTomatotd-Luc2で標識しておき、 IVIS spectrumを用いて腫瘍増大・転移を経時的にモニタリングする。 組織学的・ 病理学的解析は、分担研究者の谷野が遂行する。
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 11件、 謝辞記載あり 11件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
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