オートファジーは様々な疾患に関与することが報告されており、疾患制御の観点から注目を集めている。中でも炎症性腸疾患(IBD)に関するオートファジーの研究が精力的に進められ、腸管上皮におけるオートファジーの異常が抗菌ペプチドの分泌を担う腸管上皮のパネート細胞の分化や機能に影響することが明らかにされるなど、オートファジーとIBDの関連性が指摘されている。 本研究課題の遂行前に腸管上皮特異的にオートファジーを欠損するマウスにおける腸幹細胞(Lgr5+細胞)の著しい減少と腸管上皮の再性能低下を見出していた。Lgr5+細胞の減少により引き起こされる腸管上皮の再性能低下はIBDの発症に繋がると考えられ、本研究課題ではオートファジーの欠損で生じるLgr5+細胞の減少メカニズムを追求した。上述のパネート細胞は幹細胞ニッチとしての役割もあるため、初めにパネート細胞特異的にオートファジーを欠損するマウスのLgr5+細胞数を調べた。だが細胞数の減少は見られず、パネート細胞のオートファジー欠損が原因でないと考えられた(平成27年度遂行)。そこで平成28年度はLgr5+細胞固有のオートファジーに焦点を当てた実験を遂行した。それによりオートファジーを欠損するLgr5+細胞の酸化ストレスと小胞体ストレスの増加を確認した。また、酸化ストレス付与によるLgr5+細胞の減少と幹細胞性の低下をex vivoオルガノイド培養系で確認した。これらの結果からLgr5+細胞におけるオートファジーは酸化ストレスと小胞体ストレスの除去に重要であり、オートファジー機構の破綻によりLgr5+細胞の減少と腸管上皮の再性能低下を招くことが示唆された。
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