研究課題/領域番号 |
15K15114
|
研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
松村 耕治 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等, 講師 (30272610)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | iPS細胞 / 多能性幹細胞 / 分化誘導 / 線維芽細胞 / 神経細胞 / 奇形腫 / ソーティング / 細胞分散 |
研究実績の概要 |
奇形腫の作成: 未分化iPS細胞を免疫不全マウス精巣へ移植して、約3ヶ月後に奇形腫を摘出した。組織学的には、神経前駆細胞、軟骨細胞、網膜細胞、消化管上皮細胞を含む奇形腫が発生した。 細胞単離とソーティング: 奇形腫からの細胞単離は、ハサミで細切後に溶血処理、ナイロンメッシュ(1mm, 100um, 70um)で行うと、細胞破片と80%程度の生細胞が回収される。以下に挙げる蛍光直接標識抗体によりソーティングを施行、さらに細胞を無菌的に培養して目的の細胞が得られた。奇形腫は、ヒトを認識する抗体より(HuNu)ヒト由来の細胞を確認した。単離細胞に対して、表面マーカーにて発現細胞のスクリーニングを行った。神経系細胞: CD271 (神経堤)、Anti-A2B5 (グリア細胞)、CD56 (NCAM、神経前駆)、間質細胞: 線維芽細胞、iPS細胞: CD326 (EpCAM), TRA1-60、上皮細胞: CD324(E-Cadherin ), 内胚葉細胞: CD184(CXCR4), 血管内皮細胞: CD202b (TIE-2)、CD31、CD144 (VE-Cadherin)、CD309 (VEGFR-2/KDR)、血液細胞:CD34、CD45。その結果、奇形腫の中で多く見られる細胞は神経系が多く、CD56 (NCAM)50%、CD271 (LNGFR)10%、線維芽細胞6%と認められた。血管内皮系の細胞はいずれも1%前後であった。 培養: 奇形腫中に多くの割合で存在したCD56 (NCAM)抗体, 線維芽細胞抗体でのソーティングの後培養を行った。細胞は、抗生剤含有の神経あるいは線維芽細胞専用の培養液で行い、CD56陽性細胞は1ヶ月以上の培養で神経突起細胞へ分化した。線維芽細胞抗体陽性細胞は増殖が認められ、ほぼ100%近くがソーティングで用いた線維芽細胞抗体陽性であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫不全マウスの奇形腫は、iPS細胞移植後にほぼ100%発症して組織型も実験毎にほぼ均一である。摘出した奇形腫組織からの細胞分散は様々なアプローチ法が有り、まだ、効率よくシングル細胞分散できる満足いく方法を得ていない。しかし、一つの奇形腫から組織検査用の組織塊を除き常に10e7個以上の数の生きた細胞が得られるため(細胞破片は多い)、ソーティングを含めた先の実験へ進めることができる。 17種類以上の分化細胞に特異的な抗体で陽性細胞をスクリーニングのためフローサイトメーター解析を行い、その中で2種類の抗体で、細胞取得、培養に成功した。神経前駆細胞は、1ヶ月以上の神経細胞特異的な培養液で神経突起の見られる神経細胞へ分化した。これは、本研究の目的の一つである。増殖する線維芽細胞も得られ、抗体で線維芽細胞であることの確認を行った。ヒトiPS細胞から分化した線維芽細胞を得ることは、in vitroにおいても論文報告は見られない。本研究の根本的な一連の手技(奇形腫→ソーティング→培養)は完成した。奇形腫の組織学的検索により血管内皮細胞の細胞が取得できる事を予想していたが、用いた抗体での陽性率は1%前後で少なく、また、ソーティング後の培養で細胞増殖が見られるが血管内皮細胞マーカーの発現は認められない。血管内皮細胞に用いる抗体を検討する。上皮系の細胞は、適切な表面マーカーが得られていない。しかし、単離した細胞をソーティングなしで、上皮細胞特異的な培養液で培養したところ、上皮細胞が選択的に認められた。用いた抗体は汎サイトケラチン抗体であり、ソーティング不要の分化細胞取得の新しい手法になるかもしれない。
|
今後の研究の推進方策 |
適切な奇形腫形成: 本来の精巣部から外表部の形成を目的とするも、腹腔内に生じることが多く、水腫を伴いホストマウスを短命にする。水疱の少ない奇形腫を外表部に作成するために手技的には泌尿器科医師に相談する。また、iPS細胞を細胞コード(201B7)以外の、すでに配布を受けた細胞コード(253G1)細胞で行う。 細胞分散法: もっと効率よくできないか?ハサミの細切に加え、ホモジネーターを併用したところ、単離細胞数が飛躍的に増加するも、生細胞の割合が少なくなった。ホモジナイズの操作法、コラゲナーゼ処理時間、等の処理を検討してより多くの生細胞を得られるよう検討する。 分化細胞: ソーティングして培養に成功した二種類の細胞以外にも可能な限り分化細胞の分取、培養を行う。特に、気管支上皮や消化管上皮において分化誘導の報告はきわめて少ないため、今後、病態の解明に役立つと考えられる。これらの細胞は奇形腫の組織学的な検索では明らかに存在しているため、これらの表面マーカーを探してソーティング、培養を試みたい。奇形腫内の神経前駆細胞の陽性率は高いため、前駆細胞は多く分取可能である。しかし、前駆細胞からの分化誘導に1ヶ月以上の時間を要する。これを早めるため神経分化因子のBDNF, GDNF, NT3を加えた分化誘導培地を利用する。また、分化した神経細胞の抗体(choline)を利用して、奇形腫中に陽性細胞の有無を調べ、直接神経細胞を取り出す。 病態解明への応用: 線維芽細胞の分裂能の低下するウェルナー症候群由来のiPS細胞、いくつかの神経疾患のiPS細胞を理化学研究所細胞バンクより入手して奇形腫作成、神経細胞、線維芽細胞を分取培養してそれらの疾患の原因となる細胞より病態解明を行う。気管支細胞、上皮細胞などの分取培養がうまくいけば、他の多くの疾患で、in vitroでの培養が難しい疾患に応用が期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
全般的に、計画的な試薬の利用を考え、分注、凍結保存を頻回に行い、試薬を効率的に利用した。高価な抗体試薬は、少量に分注された抗体を購入した。神経、上皮に特異的な培地も比較的少ない量で済んだ。これは、ソーティングした細胞を48ウエルプレートなどで培養したので、少量で済んだ。ソーティング機器利用の試薬、緩衝液、未分化iPS細胞の培養、維持は以前の科研費で購入した残存試薬でほぼ代用できた。ナイロンメッシュフィルターはナイロン布を購入して手作りで行った。リアルタイムPCRの遺伝子検査を予定していたが到達しなかった。免疫不全マウスで計画的に移植して奇形腫を作る際も、3ヶ月必要で、一度に多くはマウスを利用できなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
さらに新規あるいは既存の抗体を購入する。血管内皮細胞、神経系細胞の抗体の他、分化した神経細胞マーカー(choline)、気管支、消化管上皮など少量で購入できない高価な抗体を予定している。免疫不全マウスも60匹以上を予定しているが、高価である。BDNFなどの神経分化因子、気管支上皮や消化管上皮細胞の分化因子の含まれた特異的な培地も予定していいる。分化した細胞の遺伝子発現解析のため、Taqman PCRプローブ、関連試薬、高価なマイクロアレイ解析、また、理化学研究所への疾患特異的iPS細胞の入手にも利用する予定である。
|