研究課題/領域番号 |
15K15119
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳舛 富由樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60733475)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マラリア / 脂質膜 / エネルギー代謝 / 糖新生 / リン脂質 / 中性脂質 / グリセロール |
研究実績の概要 |
熱帯熱マラリアの有性生殖期であるガメトサイトに関して、エネルギー代謝と再利用システムに注目して研究を行った。この研究は、世界で2億人の感染者、40万人超/年の死者を出すマラリアの原因となるマラリア原虫のライフサイクルにおいて、ヒト→蚊という種を超えたステージ変化にいかに対応しているかを解明し、トランスミッションブロッキング(伝播阻止)という新しい予防手段・薬剤の開発に有用な情報を与えると期待される。
この研究では(1)ガメトサイト期の感染赤血球の脂質プロファイルの変化、(2)ガメトサイト期におけるエネルギー再利用システムを解明する目的としての中性脂質の蓄積とそのリサイクリングのメカニズムを生化学的、生物物理的、そして大量データを取得できるオミックス(リピドミクス)解析を用いて行っている。まず高解像度顕微鏡観察よりガメトサイトにおいて脂質膜の大量発生と中性脂質様の蓄積を確認した。また質量分析機とリピドミクス解析を用いて(1)、(2)ともに無性生殖期である赤内ステージ(性分化前)を比較し、ガメトサイトが不飽和脂肪酸をもつリン脂質・中性子質を多く含み、血清の脂質プロファイルに類似してくることを発見した。これは蚊のステージへ移行する際に生じる環境温度変化に適応できる状態にしていると思われる。また外部より添加した重水素ラベル化したグリセロールを添加し、グリセロール骨格がリン脂質へ再利用されいてることを発見し、エネルギー源として蓄積した中性脂質が分解・再利用されいる強い可能性を示した。これらの結果の一部は、日本生化学会、日本寄生虫学会、アメリカ西部物理学会年会で発表し、現在論文作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時に以下の研究テーマを提案しており、それぞれに対しての進捗状況を示す。 1.エネルギー源としての脂質の蓄積: 原虫が蓄積するエネルギー源として中性脂質に注目し、モノアシルグリセロール(MAG)とジアシルグリセロール(DAG)の相対存在比を無性生殖期と質量分析機で比較した。多変量解析の結果、ガメトサイトと無性生殖期は区別でき、また膜画分でDAGの比率が大幅に上がり、36:4や38:4といった長鎖不飽和脂肪酸がガメトサイトで多いことがわかった。 2.脂質備蓄に関するリピドミクス解析:中性脂質と同様に200種類以上のリン脂質を定量したところ、PC,PEともに長鎖不飽和脂肪酸を持つものが増加していることが明らかとなった。 3.糖新生経路の解析:TAG→Glycerol→→Glycolysisという脂質からのエネルギー再利用メカニズムを明らかにするため、重水素ラベルのGlycerolを外部より添加し、ラベルがリン脂質内に取り込まれていることがわかった。このことはGlycerolをエネルギー源とすることが可能な証拠となる。
4.感染細胞におけるヘモグロビンとその代謝産物の定量的イメージング解析:ヘモグロビンの特異的吸収波長を検出することにより、その量を顕微鏡画像上で分析するHyperspectral Imagingという方法を用いた。この方法は顕微鏡撮像を行う際に照射光の波長を連続で変化させそれぞれの波長に対応した画像を取得することで吸光度を測定することができる。我々は、すべての吸光度マップ(画像ピクセルに埋蔵されたデータ)からヘモグロビンの特異的吸収波長を数学的に抽出し、ガメトサイト期の感染細胞の画像上に表示させることに成功した。この結果に関して論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は(1)外部添加の長鎖不飽和脂肪酸またそれらをもつリン脂質を培養に添加し、ガメトサイトの生産能の変化を検討する。この実験よりガメトサイト期で増加する不飽和脂肪酸が性分化に必要かどうかを確認できる。(2)また外部添加のグリセロールがエネルギー代謝に使用されている証拠として、ピルビン酸やTCAサイクルの中間体におけるラベル体取り込みを確認する。ラベル体は重水素ラベルだけではなく、13Cも検討する。(3)脂肪酸合成や代謝に関わる酵素群の発現量・調節を解析し、脂質プロファイルへの影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初初年度に使用予定であった大量培養用の培地やその他培養器具、顕微鏡改良作業に関して、実験準備状況と、必要データ取得のための必要量が少なかったため使用額が少なくなっている。次年度に実験を拡大するためこの差分を使用予定。
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額は、実験計画に基づき実験を拡大する。このため培養関係の消耗品、イメージング設備機器改良への使用を予定している。
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