本研究の目的は、自然界に微量しか存在しない希少糖を含む糖液をハマダラカに吸わせることで、蚊体内でマラリア原虫の発育を抑制し、当該蚊の刺咬による新たな感染者・患者の発生を防ぐ、新規マラリア伝播阻止法を開発することである。研究期間内での主要な達成目標は、1)伝播阻止活性を確認した希少糖D-アロースの、蚊体内で原虫発育阻害機序の解明と、2)D-アロースよりも強力な伝播阻止活性を示す希少糖の探索であった。 1)については、ローデントマラリア原虫(Plasmodium berghei)のヘキソース・トランスポーター(PbHT1)の組換えタンパクを作成し(平成27年度)、これをリポソーム上に配置したプロテオリポソーム(平成28年度)を用いることで、マラリア原虫のトランスポーター活性に対する希少糖の阻害能をin vitroで評価する実験系(平成29年度)の構築に取り組んだ。しかし作成したプロテオリポソームのトランスポーター活性が安定せず、リポソームの作成方法を別法に変更しての再実験が必要となった。 2)については、上記のプロテオリポソームを用いる実験系が確立すれば、少量の試薬でのスクリーニング実験を行う予定であったが、実験系の確立にもうしばらく時間がかかると判断し、別のアプローチをとった。D-アロース等の希少糖を含むシロップにも、マラリア伝播阻止効果があるのではないかと考えて、市販されている希少糖含有シロップを用いたin vivoでの伝播阻止能評価実験を行ったところ、100 mMのD-アロースとほぼ同じ程度の伝播阻止活性が認められた。希少糖による伝播阻止エサの実用化を考える場合、試薬としてのD-アロースのコストが大きな問題となるが、一般の小売店で市販されているシロップを用いて同様の効果が得られるとなれば、実用化への道が大きく広がることとなり、今後流行地での実地試験を実施する予定である。
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