研究実績の概要 |
本研究は、感染症の難治化、慢性化をもたらす抗菌薬抵抗の休眠細胞dormant cell(persister)に作用し、増殖を再開させて抗菌活性を発揮する治療薬の創生を目指して、Anti-persisterの探索を行うものである。探索法の原理は、細菌のプロテアーゼClpPの活性化物質がdormant cellを増殖細胞に転換させる可能性を示した我々の研究成果に基づいている。本年度の研究成果は下記のとおりである。 (i) 昨年度構築したClpP活性測定システムを用いてスクリーニングを継続したが、顕著な抗菌活性を示す新たな化合物は見出されなかった。 (ii)昨年までに候補となったClpP活性化化合物ACP1bについて抗菌活性を検討した。黄色ブドウ球菌と大腸菌に対するACP1bのMIC(最小発育阻止濃度)は、ともに>128mg/Lであり、抗菌活性は認められなかった。多くの抗菌薬がグラム陰性菌に作用しない要因として、RND型排出ポンプの存在が知られている。本研究ではRND型排出ポンプ構成因子であるAcrBを欠損させることにより大腸菌はACP1bに感受性(MIC,< 1mg/L)となることを見出した。又、RND型排出ポンプ阻害剤PAβNとの併用により、ACP1bは大腸菌に抗菌活性を示すことを見出した。すなわちMICは、ACP1b単独では>128mg/Lであったのに対し、併用により< 1mg/Lに低下した。さらにACP1bはポンプ阻害剤との併用により、病原性大腸菌O157、サルモネラ、さらに各種の抗菌薬に耐性な日和見感染菌の緑膿菌にも抗菌活性を示すことが明らかとなった。本研究の結果は、ClpP活性化化合物が、新たな作用機構に基づく抗菌薬の候補となる可能性を示唆しており、難治性慢性感染症治療薬の開発に大きく貢献するものである。
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