研究課題
潜在性結核は、休眠期結核菌(休眠菌)の感染する無症候状態の結核菌感染症である。潜在性結核に対処することは重要な課題であるが、未だ休眠菌感染を正確に診断できない。結核菌が感染したマクロファージ由来exosomeには、宿主細胞由来のタンパク質や核酸に加え、菌由来の様々な分子が存在する可能性が高い。特に、増殖期または休眠期の結核菌は、発現するタンパク質が異なるため、exosomeに含まれる抗原タンパク質にもそれぞれの特徴があると考える。これまで、増殖期結核菌または休眠菌が感染するマクロファージでのプロテオーム解析やゲノム解析は行われているが、マクロファージが分泌するexosomeに着目した研究はないことから、新しい潜在性結核のバイオマーカー分子の同定が期待できる。そこで申請者は、休眠菌が感染する活性化M1/M2-マクロファージの分泌するexosomeから新しい潜在性結核のバイオマーカー分子の探索をする。平成27年度は、培養細胞を用いて結核菌感染マクロファージの分泌する抗原を同定するため、マクロファージの分泌するexosomeを精製して探索した。増殖期または休眠期ウシ型結核菌BCGを感染させたマクロファージは、共にM1マーカー分子(hypocxia-inducibel factor-1alpha)の発現量が高かった。しかし、この発現レベルは大腸菌感染時に比べると低く、菌種によりマクロファージの活性化には違いがあると考えられた。次に、マクロファージの培養液中に分泌されたexosomeを超遠心法を用いて精製した。得られたしたexosomeは、タンパク量(BCA法)、粒子径および粒子数を測定したが、感染前に比べて感染後のマクロファージ当たりのexosomeのタンパク質量は増大していたが、粒子径には大きな差はなかった。現在、各exosomeのMS解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
培養細胞を用いて結核菌感染マクロファージの分泌する抗原を同定するため、マクロファージの分泌するexosomeを精製して探索した。増殖期または休眠期ウシ型結核菌BCGを感染させたマクロファージには、共にM1マーカー分子の発現が増加した。しかし、それぞれの菌の感染マクロファージにおいて、活性化マーカー分子の発現量に違いはみられなかった。そこで、今年度は、M1マクロファージの特徴的な機能として知られている、活性酸素種の酸性およびNO産生、また貪食作用について評価し、増殖期と休眠期の各結核菌によるマクロファージの活性化を比較する。次に、結核菌感染マクロファージのexosomeを解析した。超遠心法による精製も順調に進み、MS解析を行った。結核菌は、グラム陽性の細胞内寄生菌で、その対象として、グラム陰性の細胞外菌またはグラム陽性の細胞外菌のEscherichia coliまたはStaphylococcus aureusを用いて、それぞれの感染マクロファージのexosomeを精製した。現在、解析を行っている。また、血清exosomeに混入する不純物を取り除くため、ショ糖密度勾配超遠心法の確立に取り組んだ。ラット血清より超遠心で得たexosomeを再溶解後、OptiPrepを用いて作成した遠沈管に載せ、12のフラクションに分離した。各フラクションに含まれるeoxosomeマーカー分子をWestern blot法で解析した結果、フラクション6-9にexosomeの存在を確認した。本結果は、計画当初では平成28年度の検討項目であった。以上の通り、申請時に予定していた実験計画に加えて結核菌以外の菌感染によるマクロファージの反応を比較し、また平成28年度の研究計画である血清exosomeを用いた解析のための準備を進めている。
本研究では、細胞外小胞のexosomeに着目し、潜在性結核のバイオマーカー分子を探索する。平成28年度は、1.休眠菌の感染する活性化M1/M2-マクロファージが分泌するexosomeの解析、2.潜在性結核患者の血清中exosomeの解析を行う。まず、休眠菌の感染するマクロファージが分泌するexosomeを解析する。培養細胞を用いて結核菌感染マクロファージの分泌する抗原を同定するため、マクロファージの分泌するexosomeをMS解析する。抗原が同定されれば、血清中に存在するこれら抗原をEnzyme-linked immunesorbent assay法やreal-time PCR法により定量することが可能になる。また、exosome中に存在する可能性のある休眠菌の必須因子MDP1の検出を試みる。次に、ヒト血清由来exosomeの分離を行う。これまでの研究結果から、超遠心法で得られた血清由来exosomeは、アルブミンや補体などが混入し、質量分析法には適さないことが分かっている。そこで、純度の高い血清由来exosomeの精製法を確立する。昨年より、ショ糖密度勾配による分画法により分離し、フラクション6-9に存在することを明らかにした。またもう一つの方法として、ゲルろ過法を用いる。両者の方法から得られたexosomeの回収率および精製純度を比較し、質量分析法に適したexosomeの精製方法を確立する。これらの結果より、増殖期結核菌および休眠菌にそれぞれ特異的なタンパク質の抗体を用いて、患者血清由来exosome中にある抗原をWestern blot法で検出する。現在、結核菌感染、特に潜在性結核でのexosomeの解析は行われていない。マクロファージが分泌するexosomeに着目して、新しい潜在性結核のバイオマーカー分子の同定を目指す。
exosomeのDNAおよびRNA解析がまだ行えていないそのため、この解析に要する研究費が未使用となった。
上記解析は、今年度の検討項目とする。そのため、今年度使用する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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