研究課題
これまでに線虫を宿主モデルとしてビフィズス菌(BI)給餌による寿命延長とその機構解明に取り組み、p38MAPK 経路が作動し寿命を延長させることを見出したが、BI の存在を認識しp38MAPK に伝えるパターン認識受容体(PRRs)は不明であった。今回、線虫以外の生物において外来物の認識に関わると推定されている物質と類似した配列を持つ遺伝子を列挙し、RNA 干渉したところ、BI が長寿効果を発揮するにはXB 遺伝子が必要とされることが明らかになった。また、本遺伝子をRNA 干渉した線虫に黄色ブドウ球菌を感染させると、コントロール線虫と比較して早期に死亡することを見出した。しかしながら、グラム陰性菌に対しては、RNA干渉の影響は比較的小さく、本遺伝子がペプチドグリカンを認識するPRRs をコードしていることが強く示唆された。ビフィズス菌の細胞壁画分を線虫に与えると寿命が延びたことも合わせて考慮すると、細胞壁画分にXB の標的分子があると推察した。細胞壁の主要な精製成分(ペプチドグリカン、テイコ酸、リポテイコ酸)に長寿効果があるか調べ、どの成分がXBに認識され長寿効果をもたらすのか明らかにする予定であったが、テイコ酸など微量成分を回収する手法の問題もあり、先ずBIのトランスポゾン挿入変異株を作製し、長寿効果を喪失した変異体でトランスポゾンが挿入されていた遺伝子を同定するアプローチの方が良いと考えた。そこで、XB遺伝子のリガンドを探索するためにBIのトランスポゾン挿入変異体の作製を試みた。今回、アイルランド国立大学の研究者らと連携し、ビフィズス菌のトランスポゾン挿入変異株作製用のプラスミドを得た。プロトコールを改善した結果、高効率に変異株を作製できる方法を確立した。
3: やや遅れている
BI給餌時に発現が顕著に上昇する遺伝子XCをレポーターにするためGFPと融合させたプラスミドで線虫の形質転換を図り、アッセイ系を作製した。しかしながら、XB遺伝子をノックダウンした場合でもXCの発現がBI給餌に反応して顕著に上昇した。すなわち、BIが保持しているXB遺伝子リガンドを探索する目的でこの組み換え線虫を用いることはできなかった。XB遺伝子とp38MAPKに依存して発現が上昇しGFPなどのレポーターを利用してBIの有効成分をスクリーニングするのに適した遺伝子は未だ見つかっていない。そこで、アッセイ系の確立を後回しにしてBIのトランスポゾン挿入変異株作製方法の検討を優先し、これを確立した。現在、9000株を目標に変異株の収集を進めている。
BI給餌時にXB遺伝子とp38MAPKに依存して発現が急激に上昇する他の候補遺伝子を複数発見できたので、XB がPRRとして働きそのシグナル伝達経路を通じてこれらの遺伝子を制御していることをレポーターとして利用できるよう、GFP遺伝子とこれら候補遺伝子を融合させた組み換え体を作り直す。この組み換え線虫を用いてトランスポゾン挿入変異株をスクリーニングし、GFPの発現上昇しない挿入変異株、すなわちトランスポゾン挿入によりXBリガンドを喪失した変異株を探索してXBリガンドの遺伝子を明らかにする。
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