研究課題
肺炎クラミジアは絶対細胞内寄生性細菌であり、流行性の風邪や小児における肺炎の原因となる細菌である。さらに、肺炎クラミジアの慢性感染は、虚血性心疾患などの基礎疾患となる動脈硬化の発症・悪化の原因ともなる。しかし、慢性感染した肺炎クラミジアに有効な抗生剤は存在せず、クラミジアによる宿主のアポトーシス制御などの理解は、このクラミジアの慢性感染の分子機構の解明と新規の抗生剤の開発に必須であると考えられる。本研究計画者は、これまでに肺炎クラミジアのゲノム情報解析を基盤として、クラミジア感染におけるクラミジアの遺伝子と宿主遺伝子の発現解析、クラミジアによる宿主アポトーシスの制御に関する解析を進めてきた。この中で、アポトーシスのミトコンドリア経路における重要な複合体であるアポトソームを構成するApaf-1がクラミジアの増殖を抑制すること、逆にApaf-1非依存的にCaspase-9がクラミジアによって活性化され、活性化されたCaspase-9がクラミジアの感染・増殖を促進することを見出している。本研究では、クラミジアがCaspase-9をクラミジアの封入体の内部に取り込み複合体化する事によりApaf-1非依存的に活性化することを明らかにした。さらに活性化されたCaspase-9がクラミジアの感染・増殖のどのステージおよび因子に作用しているのか明らかにするために、酵母2-ハイブリッド法のためのクラミジアの全遺伝子発現ライブラリーを作成した。現在そのライブラリーを用いてCaspase-9と相互作用する因子の同定を進めている。また、NODファミリーに属するApaf-1がクラミジアを直接認識しその感染増殖を阻害すると考えられる結果を得ている。そこでCaspase-9と同様に、Apaf-1により認識されるクラミジア因子の同定を進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまでの我々の研究から、Apaf-1の遺伝子破壊マウスから樹立したMEF(Apaf-1 KO)細胞においても、クラミジアの感染によりCaspase-9は部分分解され活性化する。また、Caspase-9活性化の阻害剤はクラミジアの感染を阻害したことから、クラミジアは独自にCaspase-9を活性化し、その活性を利用していることが明らかとなった。一方、この活性化されたCaspase-9はクラミジアの封入体に局在化され、Caspase-3の活性化は観察されなかった。Apaf-1 KO細胞においてCaspase-9と相互作用する因子を、免疫沈降法やファーウエスタンなどの生化学的同定を進めてきたが、相互作用することが明らかな因子の同定には至らなかった。そこで、肺炎クラミジアと性行為感染症クラミジアの全遺伝子をもちいて、酵母2-ハイブリッド法のためのクラミジアの全遺伝子発現ライブラリーを作成した。このライブラリーを用いて相互作用する因子の同定をすすめる。一方、クラミジアの感染による宿主アポトーシスの制御は、その感染の慢性化に繋がる重要なイベントとして解析を進めてきた。その中で、Caspase-9とApaf-1の2つの宿主アポトーシス因子がクラミジアの感染に大きな影響を与えることを明らかとした。しかし、クラミジアは他のアポトーシス因子も利用している可能性があり、Caspase-8、-3、-6および一部のIAPについて、その関連性を検討したが、それらはクラミジア感染に影響を与えないことが明らかとなった。
①肺炎クラミジアと性行為感染症クラミジアの全遺伝子をもちいて、酵母2-ハイブリッド法のためのクラミジアの全遺伝子発現ライブラリーを作成した。現在そのライブラリーを用いてCaspase-9とNODファミリーに属するApaf-1について、それらの因子と相互作用するクラミジア因子の同定を進める。②プライマリーなスクリーニングからは、封入体膜タンパク質が相互作用する候補因子として同定された。この相互作用に関する詳細な検討を、細胞生物学と分子生物学的な手法をもって進める。③研究計画時は、クラミジアの慢性感染におけるクラミジアと宿主細胞の遺伝子発現を正確に理解することを目的として、次世代DNAシークエンサーを用いた感染時のクラミジアと宿主細胞の網羅的な遺伝子発現解析を実施する予定であったが、解析に必要となる予算が十分に確保できない状況である。そこで、簡易な次世代DNAシークエンサーもしくはDNAマイクロアレイ法を用いて、部分的な遺伝子発現解析を実施する予定である。
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