研究課題
単純ヘルペスウイルス(HSV)はヒトに口唇ヘルペス、脳炎、性器ヘルペス、眼疾患といった多様な病態を引き起こし、関連する医療費はアメリカ合衆国で年間30億ドルと試算されるほど大きな問題となっている。本研究はHSVによる細胞間感染に焦点を当てる。これはウイルス粒子が細胞外に放出されず直接隣の細胞に感染する方法であり、HSVでは主要な感染経路であるものの、その複雑性からほとんど研究が行われていない。本研究では、HSVの細胞感染に重要な役割を担うウイルス糖タンパク質gE/gI複合体と相互作用する宿主因子に注目した。当該因子は過剰によりHSVの細胞間感染を促進し、発現抑制によりHSV細胞間感染を阻害する。さらに当該因子に対する低分子阻害剤は、HSV細胞間感染を抑制した。いずれの場合も感染細胞を電子顕微鏡下で観察したところ、細胞内にウイルス粒子が蓄積しており、細胞内のウイルス粒子の輸送が阻害されていることが示唆された。またこのような電子顕微鏡像は、gE欠損体で報告があるものと同様である。すなわち、本研究で注目した因子は、HSV細胞間感染を引き起こすウイルス因子gEと相互作用し、その機能発現に寄与するものであると考えられた。HSVは生体内においてはほとんど細胞外へ放出されず、主に細胞間感染によって伝播すると考えられているが、その分子機構は不明であった。本因子は、HSV細胞感染を引き起こす宿主因子として初めての報告であり、本現象の理解は、効率的な抗HSV薬の創出に貢献すると考えられる。
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