肝炎、肝がん発生の原因ウイルスであるヒトB型肝炎ウイルス(HBV)のLife cycleを理解することは、ウイルス学上重要であるとともに、このウイルスの感染・増殖を阻止する新たな方策を探る上で大切である。本研究の目的は、まだあまりよくわかっていないHBVの肝細胞特異的な感染の分子機構を解明する足がかりとして、また、感染防御・制御のための抗HBV創薬の基盤技術として、新たに作製するiPSC lineから分化誘導した肝細胞を用いてこれまでにない効率がよく再現性の高い安定したHBV in vitro感染系を確立することである。本年度は、ロンザ社より入手したヒト肝細胞および肝非実質細胞にたいしてセンダイウイルスベクターCytoTune-iPS 2.0(IDファーマ)を用いた山中4因子の導入によりiPS細胞の樹立を試みその結果それぞれ8株と23株が得られた。これらのiPS細胞の中でさらに肝細胞へと分化可能なものがそれぞれ4株と18株あり、HBV感染可能なクローンが得られた。このうちiPS細胞iHP5からは長期間により安定した状態の肝細胞が得られ、DMSOの添加(2%)によってHBVレセプターであるNTCPや転写因子HNF4Aの発現も亢進させることができる。このiHP5細胞より得られた肝細胞を用いることによりHBVの感染を12日以上維持可能でまたエンテカビルやスラミンによる感染阻害効果が確認でき、感染メカニズムの解明およびHBV感染・増殖を阻止する化合物の探索に有用なHBV in vitro感染系を構築することができた。
|