研究課題
独自に開発したC型肝炎ウイルス(HCV)アッセイ系を用いて見出した新規抗HCV化合物である環状過酸化低分子化合物(N-89とその誘導体N-251)の抗HCV作用のメカニズム解明とHCV以外のウイルス(B型肝炎ウイルス(HBV)やHCVに近縁なフラビウイルスなど)に対する抗ウイルス作用の評価を目的として以下の2項目について研究を行った。(1) 抗HCV作用メカニズムの解明まず、解析手段を得るために、N-89やN-251に感受性を示すHCV RNA複製細胞にN-89やN-251を長期(約2ヶ月)に渡って投与し(Step-wise法とHigh-dose法を用いた)N-89やN-251に耐性を示すHCV RNA複製細胞株の樹立を試みた。その結果、Step-wise法によりN-89やN-251の50%阻害濃度が10倍程度高くなった耐性細胞株を得ることに成功した。N-89とN-251に対する耐性度に違いはないことからN-89とN-251の標的は同じであることが示唆された。(2) HBVをはじめ他のヒトウイルスに対するN-89やN-251の活性評価本研究開始前にN-89やN-251が抗HBV活性を示す予備的実験結果を得ていた。この結果を検証するために、HBV受容体であるNTCP分子を発現させたヒト肝癌細胞HepG2を作成し、HepG2.2.15細胞から産生された感染性HBV粒子を感染させ一過性にHBVを増殖させるアッセイ系を構築した。このアッセイ系を用いて解析した結果、N-89やN-251の抗HBV活性は当初の予想より弱く、HCVでのRNA複製阻害とは異なり、HBVでは感染阻害であることが判明した。また、サブゲノムレプリコン細胞を用いた解析ではデング熱ウイルスには効果がなく日本脳炎ウイルスに対して弱い効果があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の柱とした2項目のうち、項目(1)については、N-89やN-251に耐性を示すHCV RNA複製細胞を作成できたことから、当初の計画どおり順調に進展している。ただ、現在の耐性度は10倍程度なので、さらに耐性度の高い細胞を得ることができれば、N-89やN-251の抗HCV作用メカニズムの解明に迫ることができると考えられるので現在、その努力をしている。項目(2)については、研究計画当初予想していたより抗HBV活性が弱いことが判明したが、HCV近縁のフラビウイルスでも抗ウイルス活性を示す場合と示さない場合があることから、この作用機構を探る上でも非常に興味深い結果を得ることができた。全体としての進捗状況は、概ね良好で予想していた範囲内にあり、最終年度の研究成果が期待できる。
本研究は当初の研究計画に沿って概ね進展しているため、推進方策の大きな変更はない。従って、次年度も2つの項目について、研究を進めて行く予定である。項目(1)については、ウイルス側因子の解析として得られた耐性細胞と親細胞におけるHCVの遺伝子解析を行い、耐性獲得に伴い出現したと考えられるHCV変異の有無を明らかにする。候補となる変異が見つかった場合には、その変異をHCV遺伝子に導入して耐性獲得に関与しているかどうかの機能解析を行う。宿主側因子の解析は、耐性細胞と親細胞を用いて、cDNAおよびmiRNAマイクロアレイやリン酸化アレイの比較解析などを行う。項目(2)については、弱いながらも活性が確認できたデング熱ウイルスに関して、HCVに対する作用メカニズムと対比しながら、その作用メカニズムの解析を行う。N-89やN-251がHCVに対して強い抗ウイルス作用を示す理由を明らかにする。
効率良く且つ節約しながら研究を進めることができたことが大きな要因である。
最終年度のゴールに向けて。費用のかかるマイクロアレイ解析等に研究費を充てる。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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