研究実績の概要 |
ウイルス粒子表面に多数存在するヘマグルチニン(HA)を標的とした特殊環状ペプチド(inhibitor of HA: iHA)の開発を進め、高病原性トリインフルエンザウイルスH5N1および同じGroup1に属するH1N1、H2N2の増殖を阻害する特殊環状ペプチドiHA-100を取得している。H5N1の霊長類感染モデル(カニクイザル)を用いてiHA-100の治療効果を検討し、発症後の投与においても有意な治療効果を確認した。このiHA-100の治療効果に関与する機序の解析を行った。 iHA-100投与カニクイザルの肺では炎症性サイトカイン(IFN-γ, IL-6)およびケモカイン(MIP-1α, MCP-1)の量が有意に減少しており、iHA-100投与により炎症が抑制されていることが示唆された。加えて、IL-15についてもiHA-100投与群で顕著な減少がみられた。IL-15依存性CD8 T 細胞がインフルエンザウイルス感染における急性肺病態の病原性に関与するという報告(J.Virol. 84:5574-82, 2010) もあり、上述のIL-15の減少についてもiHA-100の病態抑制機序に関与している可能性がある。我々はさらに、iHA-100投与マウスの脾臓細胞において①IFN-γ陽性のCD4+T, CD8+T細胞が増加する②抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ)のMHC classII, CD86発現が上昇するという知見を得ている。これらの事から、iHA-100投与により免疫担当細胞(マクロファージ、樹状細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞など)に対して影響をおよぼしている可能性も考えられる。今後は、iHA-100の病態抑制機序について、免疫学的な解析を進めていく予定である。
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