研究実績の概要 |
現行の抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)とは作用機序の異なる新たな治療薬の開発を目指し、ウイルス粒子表面に多数存在するヘマグルチニン(HA)を標的とした特殊環状ペプチド(inhibitor of HA: iHA)の開発を進めている。これまでに、高病原性トリインフルエンザウイルスH5N1および同じGroup1に属するH1N1、H2N2の増殖を阻害する特殊環状ペプチドiHA-100を取得している。iHA-100は、マウスにおいてリレンザでは治療効果を示さない感染中期以降(感染4日後および6日後)からの投与においても治療効果を示す。H5N1の霊長類感染モデル(カニクイザル)を用いてiHA-100の治療効果を検討し、発症後の投与においても有意な治療効果(解熱、感染局所でのウイルス量の減少)を確認した。さらにこのiHA-100の治療効果に関与する機序の解析を行った。iHA-100投与群では、どの時点においてもvehicle投与群に比べて10~100倍ほどウイルス量が低かった。つまり、ウイルス増殖が顕著に抑制された。しかしながら、減少しているわけではなくある程度のウイルス量(105 pfu/g lung)は残存していた。それにもかかわらず、感染3日目以降は体重減少および肺水腫・肺炎といった病態の進行は止まった。iHA-100投与群においては、23項目のうちIFN-gamma, IL-6, MIP-1alpha, MCP-1, IL-15の量がvehicle投与群に比べて顕著に減少していた。IFN-gamma, IL-6は炎症性サイトカインとして知られており、またMIP-1alpha, MCP-1は炎症部位への白血球の誘引に関与するケモカインである。今後は、iHA-100の病態抑制機序について、免疫学的な解析を進めていく予定である。
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