加齢に伴う免疫応答能の低下や自己寛容維持機構の劣化、炎症性素因の増大(免疫老化)は、感染症、癌、自己免疫病など高齢化社会の主要疾患の発症に大きく寄与している。免疫老化には多くの免疫担当細胞が関与するが、中でも胸腺退縮により成人期以降新たな産生が激減するT細胞の加齢変化の影響が最も大きいとされる。しかしながら、その実態や全身性の免疫システムの緩徐な劣化や応答様式の変容との関連性は必ずしもよく理解されていない。本研究は、健常人コホートを利用してヒト老化関連T細胞の同定とその機能解析を行うことにより、中年期以降増加する様々なヒト疾患の発症に共通した基盤となるヒト免疫老化の実態を包括的に理解し、その克服と制御方法の開発に資することを目的としている。これまで、京大長浜コホートの実施する健康診断システムを用い、約250人の健常人末梢血について免疫老化のマーカー分子の発現をフローサイトメトリを用いて解析し、現在様々な臨床検査値データとの相関解析を行っている。今年度はさらに、胸腺摘出によりT細胞老化を促進するマウスモデルを確立し、この系を用いて新たな老化T細胞マーカーの探索と新規老化T細胞分画の同定を試みた。その結果、炎症性ケモカインの受容体CXCR3を発現し、IFNgやTNFaなどの炎症性サイトカインを高く発現するナイーブCD8T細胞集団(CXCR3+ NP CD8 T cells)を新たに同定することができた。CXCR3+ NP CD8 T cellsは加齢マウスにも認められ、ヒトにおいても個体間に極めて異なる存在比率で存在することが確認された。このまたこの細胞を炎症モデルに移入すると、炎症反応を促進することが明らかになった。今後、コホート studyを活用し、CXCR3+ NP CD8T細胞が免疫老化や加齢関連疾患にどのように寄与しうるのか、詳細を明らかにしていく予定である。
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