研究課題
マスト細胞はIgEの高親和性受容体FcεRIを発現しており、アレルギー疾患をはじめ、様々な免疫応答に関わっている。マスト細胞の分化・機能制御に関する知見の多くは骨髄細胞をin vitroで分化誘導して得られるBMMCを用いて明らかにされてきたが、近年、BMMCと生理的なマスト細胞との質的な乖離が指摘されつつある。しかし、これまで真の意味でマスト細胞特異的なCre発現マウスは知られておらず、個体レベルでマスト細胞の解析を行うことは困難であった。そこで研究代表者は、マスト細胞のアイデンティティを担うFcεRIαの発現に着目し、その下流にCre発現カセットを組み込んだFcεRIα-Creノックインマウスを樹立することで、この課題に取り組んだ。具体的には、予備的な解析からマスト細胞の分化・機能発現に関わることが示唆されてきたmTORC1シグナルとArfファミリーに焦点を絞り、FcεRIα-Creノックインマウスとの交配により、当該遺伝子の欠失させることで、マスト細胞の分化に差異が認められるか、解析を行った。mTORC1シグナル伝達に必須のRaptorを欠失させたところ、腹腔内に存在するマスト細胞数の減少が見られる一方、mTORC1シグナルの負の調節因子であるTsc1を欠失させると、逆に腹腔内マスト細胞数の増加が観察された。以上の結果は、腹腔内マスト細胞の分化や生存にmTORC1シグナルが密接に関わることを強く示唆している。一方、Arfファミリーに関しては、マスト細胞で高い発現が見られるArf1やArf6をそれぞれ単独で欠失させても、マスト細胞の成熟や刺激に有意な変化は認められず、Arf1/Arf6が互いの機能を相補している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、世界初となるマスト細胞特異的Cre発現マウスを用いて、マスト細胞の分化や機能制御に関わる分子基盤を個体レベルで調べることを目的としている。これまでに、当初計画で予定していた、Raptor、Tsc1、Arf1、ならびにArf6の4つの遺伝子をマスト細胞特異的に欠失させることに成功しており、その結果、mTORC1シグナルがマスト細胞の分化・生存に密接に関わることを明らかにする一方、Arf1やArf6の単独欠失ではマスト細胞の分化や成熟、機能発現に変化が認められないことを見出している。これを受け、mTORC1シグナルとマスト細胞機能に関しては、予定通り、感染実験やアレルギーモデルを利用した解析に取り組むべく、対象となるマウスを増やしているところである。一方のArfファミリーを介したマスト細胞機能制御の実体解明に関しては、Arfファミリー間の機能的相補が疑われる結果から、現在、Arf1/Arf6の二重欠失マウスの作出に取り組んでいる。予備的な解析からは、Arf1/Arf6を二重欠失させたマスト細胞において、FcεRI刺激によって引き起こされる脱顆粒反応の減弱が観察されている。
mTORC1シグナルとマスト細胞機能との関連については、mTORC1シグナルを介したマスト細胞分化制御機構の解明を目指すべく、各種転写因子群の発現レベルの解析に取り組むと共に、腹腔内マスト細胞の機能に変化が認められるか否か、in vitro・in vivoの両アッセイ系を併用した検証を行う。一方、Arfファミリーとマスト細胞機能との関連については、Arf1/Arf6の二重欠失マウスを樹立し、個体レベルでマスト細胞数の変動が認められるか否かを明らかにすると共に、in vitroにおける予備的な解析から示唆される、成熟マスト細胞の機能低下が個体レベルでも観察されるか否か、各種アッセイ系を用いて評価する。
すべて 2015
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Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 12796
10.1038/srep12796.