災害被災地域における被災者対象の調査研究を行うに際しての倫理的配慮に関する論文・報告書等の文献レビュー等による問題整理を行い実態調査の質問項目を策定した。宮城県沿岸部の被災自治体15市町の職員を対象に、東日本大震災に関して協力、もしくは、断った調査、あるいは、聞き及んでいる被災者・職員を対象とした調査に関して、調査時期、内容、協力内容、事前説明や情報還元のあり方、倫理審査、インフォームド・コンセントの有無、被験者、自治体職員への負担、利益、不利益等を尋ねるWEB調査、並びに、聞き取り調査を行い、7市町の自治体職員から回答を得た。また、被災地域の人を対象とする調査実施の実態を把握する為、災害に関連する主要な学会、および、学会に所属している学会員に協力依頼を行い、災害発生から最も早い時期に開始した調査について、調査時期や方法、倫理委員会の承認有無や倫理指針の認知度、調査実施に伴う注意点等を尋ねるWEB調査を行った。自治体職員が把握している調査の多くが倫理審査を経て、自治体職員への事前説明、被験者からの説明同意の取得を経て行われている一方、把握できないところで多くの被災者対象の調査研究がなされていると認識している自治体職員が多かった。また、医学系の調査研究に関しては、倫理審査の体制、基準が比較的一定であるが、その他の研究領域の倫理審査の体制が定まっており、調査実施に際して一定の倫理的配慮がなされている一方、医学系以外の研究領域や学術機関以外の団体が行う調査では、必ずしも倫理審査を経て、一定の倫理的配慮を経て調査研究がなされるとは限らないことが示された。今後、被災地域での被災者を対象とする調査を行う際に一定の倫理的配慮を行うことに関して学際的なコンセンサスを形成すること、また、倫理的配慮を欠く調査から被災者が不利益を被らないようにするための方策の策定が必要と考えられた。
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