本研究では、治療抵抗性の不可逆的な活動型終末期せん妄患者の家族に終末期鎮静に関して説明する際に、医師に求められる望ましいコミュニケーションや態度を明らかにすることを目的とした。 本研究のために、治療抵抗性の不可逆的な活動型終末期せん妄に関して2つの異なる患者-医師関係を反映させた説明スタイル(1.医師が鎮静をすすめるPaternalistic style、2.鎮静に関して情報提供のみ行い家族の自律性を重んじるautonomy style)を表現したビデオを作成した。 名古屋市立大学病院および東大阪病院でがん診療に従事した経験を3年以上有する医師、看護師を対象として本ビデオを視聴してもらい、いずれのスタイルを好むかに加え、ビデオを視聴した際に感じた医師の共感能力をPhysician Compassion Scale (PCS)を用いて評価した(PCSは点数が低いほど医師の共感が高いことを示す)。また一部の参加者からそのスタイルを選択した理由を面接で聴取し、質的な検討を行った。 251名から有効なデータが得られ、PCSはAutonomy styleの方がPaternalistic styleに比べ有意差はないものの低い傾向にあり、好みに関しては、autonomy styleを好むのが有意に多かった。その理由について、多くの参加者が、家族が好ましい治療を決めることができるためと答えた。 本結果より、難治性の終末期せん妄患者の家族に終末期鎮静に関して説明する際に、医師の共感性という側面からは、Autonomy styleの方がPaternalistic styleに比べてよい傾向がみられることが示唆された。Autonomy styleを好む理由として、我が国おいては、家族を含めた集団的な意思決定が重視されるという文化的背景が影響を与えている可能性が示唆された。
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