N-[[1-(5-フルオロペンチル)-1H-インダゾール-3-イル]カルボニル]-3-メチル-D-バリンメチルエステル(通称5F-ADB)は2014年秋に流通し、我が国で100名近くの死亡者を生み出した合成カンナビノイドである。その精神毒性と身体毒性の本質を明らかにするため、我々はマウス中脳スライス標本からパッチクランプ法によってドパミン神経ないしセロトニン神経の活動を記録し、急性処置した5F-ADBの作用を検討した。5F-ADBは1μMという低濃度でドパミン神経の発火を増加させ、その作用はCB1受容体遮断薬のAM251(1μM)によって完全に遮断された。一方、セロトニン神経の自発発火に対して5F-ADBは何ら作用を発揮しなかった。なお、セロトニン神経の同定は発火パターンに加えて記録ピペット内に吸引されたmRNAをTPH2プライマーによってRT-PCRで増幅して行った。さらに、セロトニン神経の自発発火はCB1受容体遮断薬AM251によって影響されなかったことから、セロトニン神経はCB1受容体により持続的な抑制を受けていないことが示された。以上の結果から5F-ADBはCB1受容体の活性化を介してドパミン神経を活性化させることで陶酔感をもたらし精神依存性を来すが、中脳セロトニン神経の活動性には影響がなく、一見セロトニン症候群のように見える身体毒性は別の機序によって起こるものであることが明らかになった。
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