膵癌は特に進行が早く予後不良である。成熟した癌細胞形成までに10年以上の期間が存在すること、早期癌であれば他の消化管癌と遜色ない治療成績が得られることからも、膵癌診療において早期発見が非常に重要である。残念ながら既存の画像診断法・バイオマーカーによる診断では、10mm以下の病変、特に浸潤していない早期癌を同定することは不可能であることから、機能性を指標としたバイオマーカーの開発を試みた。 我々は、膵癌に特異的に発現が増強する細胞内マーカー蛋白を同定し、これが細胞外に分泌されることを確認した。この細胞内マーカーp62は膵癌細胞をもちいた検討において、細胞内p62蛋白質量と培養液中に分泌・放出されるp62が関連するかどうかをELISAにて測定を試みたところ、分泌液の定量的な評価に成功するとともに細胞内濃度との相関が見られ、細胞外に分泌されかつその測定が可能であることを示すことができた。そこで、膵癌患者血清を使用して測定したところ、検出感度以下となり、さらなるELISAの改良を必要とすることが分かった。 血清でのp62蛋白の同定は困難であったため、癌細胞における機能およびそれを用いた治療を追求することとし、p62蛋白は細胞内オートファジーのマーキング蛋白で有ることから、オートファジー阻害薬であるクロロキンを用いたところ、膵癌細胞株ではなく、膵腫瘍の一種である膵神経内分泌腫瘍のアポトーシスを誘導し、腫瘍抑制に働くことを明らかにした。具体的には膵神経内分泌腫瘍細胞株Min6にクロロキンを投与したところ、神経内分泌腫瘍治療薬であるエベロリムスに比較して有意にアポトーシスを更新させ、細胞数減少が認められ、さらにその本体はERストレスであることが明らかとなった。
|