研究課題
高分化した成熟細胞は発現せず病的な幼弱細胞へと脱分化することで転写を開始する遺伝子LR11はプロテアーゼにより分断され可溶性レセプターとして血中に放出される。この放出された可溶性LR11はELISAにより測定することが可能である。本研究の目的は、代謝血管病における脂肪細胞のフェノタイプトランジッションを反映するのか、アルツハイマー病の髄液と組織発現LR11は病態を反映するのか、血液病で血中LR11値はがん細胞の病態を反映するのか、を明らかにすることである。マウスおよびヒト由来前脂肪細胞から褐色脂肪および対照として白色脂肪条件で分化誘導した成熟脂肪細胞を誘導することに成功した。両者で明らかな熱産生エネルギー消費に関連する遺伝子発現レベルが異なり、分化条件により白色脂肪、褐色脂肪に成熟させることができたと考えられた。平滑筋細胞のトランジッションをあらわす病態として冠動脈疾患血管構築術後野患者を対象にその予後(再狭窄)と血中LR11値を解析し、高LR11血症患者のリスクが高いことが明らかになった。神経細胞における検討は、米国ワシントン大学より今年度、米国ADNI研究剖検検体脳組織切片が送られることとなり、そのための抗LR11抗体をもちいた基礎検討を行い染色条件を設定した。また、血液病では、悪性リンパ腫患者の高LR11血症と病態と予後を検討し、両者が密接に関連することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
モデル解析から予想された病態変化とその起因となる遺伝子変化を生理学的及び細胞生物学的解析により同定でき、初代培養をもちいたアッセイも確立できたことから計画通り進むことができた。
1)代謝血管病における脂肪細胞のフェノタイプトランジッション解析 前年度成功した初代培養脂肪細胞のLR11発現、細胞外放出など、とりわけ、褐色脂肪に関わる熱産生機能の解析を行う。培養細胞分化成熟能に対するLR11中和抗体とリコンビナントLR11の効果を検証する。2)アルツハイマー病の髄液と組織発現LR11の関連解析 米国ADNI研究剖検検体脳脊髄液のLR11測定を行い、組織切片の免疫染色の結果と比較検討を行う。アルツハイマー病発症(ステージ)におけるLR11蛋白発現強度および局在化異常、さらに、登録されているアミロイド、タウ濃度との関連を解析する。3)血液病における血中LR11値の病態検査学的意義 悪性リンパ腫患者の高LR11血症、LR11正常患者の病因細胞を解析し、血中LR11値と臨床解析データの相関解析により、ステージおよび予後との関わりを検討する。これらの本研究で対象とする3疾患領域における病的トランジッション幼弱細胞を血中可溶性LR11が反映するのか、またどのような病態を反映する可能性があるのか総合的に解析し、新規の可溶性レセプターバイオマーカーの検査学的意義を提示したい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
Atherosclerosis
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