がんの病理診断において、病理標本からの形態を保ったままの癌遺伝子の変異解析は、革新的な診断ツールになり得る。本研究では、マイクロデバイスにより、少ない試薬量で、効率良く 組織切片からがん遺伝子が検出できる方法を開発し、病理検査の新しい方法への適応可能性を探索する。病理診断の課題である「病理標本上で形態を保ったままの遺伝子変異の検出」「質的・量的に精度の高い検出」「迅速性」を持った方法論の確立を目的に、マイクロデバイスを用いた細胞内 Padlock RCA法による遺伝子変異検出法の開発を行う。今年度はアクリル切削加工機を用いてのデバイス作製を中心に行った。培養細胞を入れるデバイスは、カバーガラスとシリコーンゴムであるポリジメチルシロキサンPDMSで流路を型どりしたシートを貼り合わせて作製した。流路形状について、アクリル切削加工機を用いて長方形から円径までいくつかのパターンの鋳型を作成し、これを型どり性能を比較した。直線型よりも円径の流路のほうが、反応液を入れ替えた際に残りにくく、気泡が抜けやすいことが示された。また、RCA産物の数も円径流路のほうが多いことが示された。この円径の流路を用いて培養細胞および組織切片を用いてβアクチンおよびがん遺伝子K-rasのmRNAの分析を試みた。産物数は少ないもののK-rasのmRNAが他の細胞よりも多いとされているBeWo細胞では、ほとんどすべての細胞に産物を検出することができた。しかしながら、感度は十分ではないので、今後も反応条件の検討が必要である。
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