研究課題/領域番号 |
15K15202
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20363971)
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研究分担者 |
高浪 景子 岡山大学, 自然科学研究科, 研究員 (70578830)
歌 大介 富山大学, その他の研究科, 助教 (70598416)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ガストリン放出ペプチド(GRP) / GRP受容体 / 痒み / 難治性掻痒症 / 霊長類 / 遺伝子改変ラット / 脊髄 / 三叉神経系 |
研究実績の概要 |
我々が経験する強い『痒み』は非常に耐え難く、生活の質(QOL)を著しく低下させる。一方、最近、神経ペプチドホルモンのgastrin-releasing peptide(GRP)、およびその受容体(GRPR)が介在し、延髄・脊髄レベルで痛覚とは乖離した神経機構により、痒覚を特異的に伝達することが報告された。そこで本研究では、げっ歯類の掻痒症モデルを用いてGRP系に着目し、難治性掻痒症の神経機構とその病態生理の解明に迫る。さらに、『痒み』の鍵因子としてのGRP系を、ニホンザルの解析を通じて霊長類において普遍化し、臨床応用(痒み制圧)への『橋渡し』を目指す。
これまでヒトを含む霊長類の脊髄におけるGRP関連の報告は乏しいため、本研究では、霊長類の脊髄や脳幹におけるGRP発現とその生理機能を明らかにする目的でニホンザル(Macaca fuscata)を用いた解析を行った。バイオインフォマティクス解析および遺伝子クローニングによりGRP/GRPR遺伝子の同定を試みた結果、ニホンザルとヒトのGRPの一次構造は完全一致しており、GRP/GRPR遺伝子は霊長類間で高い相同性を示した。
次に、本研究室で作出したGRPR遺伝子改変ラット [ GRPR発現細胞に赤色蛍光タンパク質RFPとヒトジフテリア毒素受容体を同時に発現するトランスジェニック(Tg)ラット ] のキャラクタリゼーションを進めた。GRPR Tgラットの脳と脊髄におけるGRPR発現ニューロンの局在についてRFPシグナルを指標に解析した。その結果、GRPR発現が報告されている脳・脊髄の各領域においてRFP陽性ニューロンを多数観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は霊長類のニホンザルにおける脊髄GRP系の確認を目標としており、本研究により、ニホンザルの知覚神経系においてGRP/GRPR系の遺伝子・ペプチド発現の同定が完了し、GRP/GRP受容体系がヒトを含む霊長類においても普遍的に痒みの伝達に関与することが示唆された。
さらに今回の解析から、本研究室で作出したGRPR Tgラットは、個体・行動レベルでGRPRの機能を解析する上で優れたモデルであると言える。
以上の成果から、研究はおおむね順調に進展しているものと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
われわれヒトを含む霊長類の脊髄におけるGRP/GRPR系の機能を明らかにしていくことは急務であるが、本研究の発展により、難治性掻痒症などの臨床研究へ発展する、「橋渡し」となることが期待できる。今後は、ホルマリン固定したニホンザル組織を用いて凍結切片(延髄、三叉神経節、脊髄、後根神経節)を作製し、GRPに対する免疫組織化学、およびGRP-Rに対するin situハイブリダイゼーション解析を実施して行く予定である。
さらに、モデル動物としてげっ歯類のラットを用いた解析も平行して推進していく。即ち、本研究室で作出した遺伝子改変モデル(GRPR Tg)ラットに対して、ジフテリア毒素を局所投与することによりGRPR発現ニューロンを時・空間特異的に破壊することができる展望がある。このことから、今後、痒み神経機構におけるGRPRの作用メカニズムを解明できることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ニホンザルのサンプル確保に予想以上に時間を要したため、27年度はバイオインフォマティクス解析を優先させた解析を進めた。また、遺伝子改変ラットの繁殖に計画以上の時間を要したため、27年度は実験を遂行するための十分な個体数を確保できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
ニホンザルの解析に関しては、27年度中に一定のサンプル確保には成功したため、28年度は免疫組織化学、生化学、および分子生物学的解析を行っていく予定である。また、引き続きサンプル収集も進める。
遺伝子改変ラットの繁殖も続けており、28年度は個体数が確保でき次第、本遺伝子改変ラットを用いて難治性掻痒症モデルを作製していく予定である。
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