アトピー性皮膚炎等による慢性的な痒みは,過度の肉体疲労や精神的ストレスなどを起こし,多くの患者のQOLを低下させている。しかし,痒みの慢性化機序は依然不明である。前年度までに,慢性掻痒モデルマウスの脊髄後角において長期的に活性化するアストロサイトのSTAT3とそれに続くLCN2(lipocalin 2)の産生放出が慢性掻痒に重要であることを明らかにした。そこで本年度は,アストロサイトでのSTAT3活性化とLCN2産生放出における細胞内カルシウム制御分子(IP3受容体とtransient receptor potential channel(TRP)チャネル)の関与を検討した。 マウス初代培養アストロサイトを調製し,IL-6刺激後のSTAT3のリン酸化をウエスタンブロッティング法,LCN2の産生放出をELISA法により解析した。IL-6刺激によって即時的で一過性のSTAT3のリン酸化と遅発性で持続的なリン酸化が認められ,LCN2の産生放出は後者と時間的に相関した。遅発性のSTAT3リン酸化とLCN2産生放出は,IP3R阻害薬により抑制された。培養アストロサイトに発現しているIP3Rサブタイプ(IP3R1とIP3R2)のうち,IP3R1 siRNAによるノックダウンによってSTAT3のリン酸化が抑制され,LCN2産生放出も抑制された。また,TRPチャネルについても同様に検討し,TRPチャネルサブタイプ(詳細は非公表)がアストロサイトに発現し,その阻害薬およびsiRNAでIL-6誘発のSTAT3リン酸化とLCN2産生放出が抑制された。以上より,アストロサイトのSTAT3の活性とLCN2の産生放出に同細胞に発現するIP3R1とTRPチャネルが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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