研究課題/領域番号 |
15K15206
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研究機関 | 広島文化学園大学 |
研究代表者 |
森田 克也 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (10116684)
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研究分担者 |
土肥 敏博 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (00034182)
北山 友也 武庫川女子大学, 薬学部, 講師 (60363082)
本山 直世 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (70509661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | miRNA / Let-7b / TLR-7 / 血小板活性化因子(PAF) / LPCAT2 / 難治性疼痛 / 疼痛緩和 |
研究実績の概要 |
近年,難治性疼痛病態の形成・維持に,脊髄でのグリア細胞と神経のクロストークが重要な役割を果たすことが明らかになってきている.本研究では、神経系に多く存在するmiRNA の一種であるLet-7bが,神経細胞の損傷により分泌され, Toll用受容体(TLR-7)に作用して,グリア細胞の活性化や神経変性の誘発を介して疼痛の発症と維持(難治化)に寄与するとの作業仮説を提唱し、その実証と標的機能分子の詳細な検討から新しい疼痛治療法・治療薬の開発を目的とする。 miRNAの新しい機能に着目し,Let-7bをマウス脊髄腔内に投与することにより,数日間持続する強いアロディニア応答および痛覚過敏反応を引き起こすことを見出し,本作用がTLR-7を介することをRNA干渉による脊髄TLR-7ノックダウンやTLR-7 agonistsの研究から明らかにした.加えて,血小板活性化因子(PAF)が疼痛の発症と維持に重要な役割を果たしており,疼痛モデルマウスで誘導型PAF合成酵素LPCAT2の長期間持続した発現誘導を認めた.Let-7bおよびTLR-7 agonistsによる疼痛反応はPAF阻害薬やLPCAT2ノックダウンマウスを用いた解析によりLet-7b→TLR7→LPCAT2/PAFカスケードの関与を明らかにした. 神経障害性疼痛,急性および慢性炎症性疼痛を含む各種疼痛モデルマウスにおいて,特異的Let-7b against (Let-7bの機能を抑える相補的RNA)の脊髄腔内投与により強力な鎮痛作用を認めた.さらにTLR-7及びLPCAT2ノックダウンマウスでも同様の鎮痛作用を示し,観察期間(3ヶ月以上)を通して疼痛の発現を認めなかった.このことは,TLR-7/LPCAT2を介したシグナル伝達系が痛みの難治化に関係しており,この系を断ち切ることで「難治性疼痛の劇的緩和作用」が得られる可能性を示している.末梢知覚神経の障害や刺激により遊離されたLet-7bがTLR-7を刺激しPAF/LPCAT2系を介して,痛痛の発症と維持に大きく関係すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Let-7bがTLR-7を活性化してPAF/LPCAT2活性化を介して疼痛の発症と維持機構に大きく関与していることを示唆する結果が得られた.加えて,種々の疼痛病態疾患モデルマウス(神経障害性疼痛,急性および慢性炎症性疼痛,糖尿病性ニュールパチーを含む)においても,Let-7b→TLR7→LPCAT2/PAFカスケードが重要な役割を果たしていることを明らかに出来た.本研究では,難治性疼痛疾患の画期的な治療法・治療薬開発の可能性について独自の発想からチャレンジするもので,達成度は概ね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
H27年度実績によりLet-7b/TLR-7/PAF/LPCAT2系が疼痛の発症並びに維持(難治化)機構に深く関与している可能性が示唆された.H27年度はin vivoでの行動薬理学的な解析・検証を主として行ってきた.これら機能分子の産生・発現制御機構,標的細胞・分子,分子間相互作用等について,生体および脊髄から単離培養したミクログリア、アストロサイトおよび脊髄後根神経節(DRG)細胞で詳細な分子生物学的・免疫組織化学的検討を加え,H27年度実績の検証を行い、疼痛シグナル伝達における役割について神経科学的に実証する.加えて,各種難治性疼痛モデル動物を作製し、疼痛発症後の血中および脳脊髄液中Let-7b濃度,脊髄組織Let-7b含量と痛み関連行動の強度についての検討から作業仮説の妥当性についてさらなる検証を行う.また,Let-7b/TLR-7系が観念的にしか捉えられない痛みの病態把握バイオマーカーとしての開発の可能性,さらに神経細胞障害の進行を促進する可能性についても検証する.当該機能分子の含量および発現調節はリアルタイムPCR法,Western解析,ELISA法,免疫組織化学的手法により測定する. 一方,より重要な点はLet-7bの標的分子であるTLR-7やその下流に位置するLPCAT2のノックダウンで長期間持続した鎮痛作用を認めたことである.siRNAによるノックダウンは一過性であり,処置10日後には元のレベルに回復していた.このことはTLR-7活性化によるPAF産生のpositive feedback loopが痛みの難治化に関係しており,この系を断ち切ることにより『恒久的鎮痛の緩和作用』が得られる可能性を示すものである.このことは新たな創薬ターゲットの可能性を示唆している.これら機能分子についての詳細な研究から新規治療法・鎮痛薬の開発の可能性について検証し,得られた成果を取りまとめ,成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度実施計画では,原因の異なる各種難治性疼痛モデル動物でLet-7bの血中および脳脊髄液中濃度,さらに脊髄組織含量の変遷についてリアルタイムPCR法により定量的に解析する計画であったが測定方法の確立に時間を要してしまったため,神経科学的・分子生物学的研究はH28年度に実施する予定である.そのため,H27年度は難治性疼痛モデル動物を使用した行動薬理学的解析を先行して実施し,in vivo 実験で成果を得ることができた.H27年度使用予定額の一部をH28年度に繰り越して,神経科学的・分子生物学的研究の費用に充てる.
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次年度使用額の使用計画 |
本年に引き続き,各種難治性疼痛モデルマウスを用いて行動薬理学的解析を行う.H27年度は上述の理由により分子生物学的解析が十分行えなかったため,H28年度は当該機能分子の血中および脳脊髄液中の動態や産生・発現誘導・活性化,分子間相互作用等について分子生物学的・免疫組織化学的解析を重点的に行い,in vivoで得られた成果の分子レベルでの裏付けをとり、より確実なものに構築をめざす.当該機能分子の量および発現調節などはリアルタイムPCR法,Western解析,ELISA法,及び神経科学的手法,免疫組織化学的手法を駆使して評価する.このため,次年度使用額として,1986,270円を計上した.さらに,これら機能分子をターゲットとした難治性疼痛の新規治療法・鎮痛薬の開発を目指した研究を展開する.
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