研究課題/領域番号 |
15K15209
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯嶋 徹 名古屋大学, 現象解析研究センター, 教授 (80270396)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線検出器 / TOF-PET / 半導体光検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、チェレンコフ光を用いた高時間分解能TOF-PET装置の基礎技術開発を進める。申請者達が素粒子実験に用いる次世代粒子識別装置「TOP(Time-Of-Propagation)カウンター」の開発で培った、輻射体、高時間分解能光検出器や読出電子回路に関する技術を有効に活用し、従来のシンチレーション光を用いたTOF-PETよりも格段に明瞭なイメージング性能が得られることを実験的に示すことを目的としている。これまでの研究においては、海外の共同研究者により、4x4マトリックス状のPBF2輻射体と4x4マルチアノード型MCP-PMTで構成される検出器を用いて、Na線源からの対消滅ガンマ線の同時計測を行い、15mm長の輻射体で95ps(FWHM)の時間分解能が得られていた。 H27年度においては、同じ海外の共同研究者と名古屋大学大学院生の協力のもとに、半導体光検出器の使用の可能性を検討するために、浜松ホトニクス社製の新型MPPC(S13360-3050CS)のサンプルを入手して、パルスレーザー光を用いた時間分解性能の基礎測定を行い、赤色光で約150ps(FWHM)、青色光で約230ps(FWHM)の時間分解能を得た。また半導体入力面上の位置依存性を詳細に測定し、半導体の構造にもとづく信号遅延時間の広がりが約60ps程度あることを明らかにした。さらにNa線源を用いて、対消滅ガンマ線の同時計測を行い、330ps(FWHM)の時間分解能を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、平成27年度までに、光検出器の詳細な評価を行うテストベンチの製作と、Na線源からの対消滅ガンマ線を計測するシステムの構築が進み、本研究を進めるハードウェア・ツールが整った。このツールを用いて、半導体光検出器の詳細な性能測定を行うことができた。これは当初の計画では平成28年度に予定していたもので、予想以上の進展と言ってよい。 その一方、測定結果を理解するとともに、今後のシステム設計の指針を決めるうえで必要となるシミュレーションコードの開発はやや遅れがあり、平成28年度に是非進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
TOF-PETの光検出器として半導体を用いることのメリットは装置の低コスト化とMRI-PETで必要となる耐磁場性の向上にある。平成27年度の研究において、MPPCを使って対消滅ガンマ線の時間分解能として330ps(FWHM)の結果を得た。この結果は、半導体検出器を用いた時間分解能としては(他のタイプのものと比較して)良好な結果であるが、MCP-PMTに比べると悪く、今後改良の必要がある。H27年度の研究で得られた時間分解能のレーザー波長に対する依存性は、半導体検出器内部の構造の影響を示していると考えられ、時間分解能に最適化した半導体構造をメーカーと検討してゆく。一方、時間分解能を最優先とするならば、MCP-PMTは依然として最良の検出器であり、より低コストでよい高い量子効率、より大きな有効面積をもったMCP-PMTの製作可能性を探ることも重要である。 また、シミュレーションにより、測定で得られた結果を定量的に解釈理解することが必要である。入射ガンマ線と輻射体の反応(光電効果とコンプトン散乱)、発生した電子の輻射体中での運動、発生したチェレンコフ光の伝搬をシミュレートするGeant4シミュレーションコードの作成を進める。 さらに、読み出し回路の検討も重要である。これまでに素粒子実験用に開発した読み出し回路や、近年開発されて市場にも出ている高時間分解能読み出し回路の適用を検討する。
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