本研究の目的は、チェレンコフ光を用いた高時間分解能TOF-PET装置の基礎技術開発である。申請者らが手がけてきた素粒子実験用のチェレンコフ検出器「TOP(Time-Of-Propagation)カウンター」に使われている輻射体、高時間分解能光検出器や読出電子回路に関する技術を有効に活用し、従来のシンチレーション光を用いたTOF-PETよりも格段に明瞭なイメージング性能が得られることを実験的に示すことを目標とした。 H28年度においては、MCP-PMT(マイクロチャンネルプレート内臓型光電子増倍管) を用いて back-to-back のガンマ線の TOF 分解能 の測定を行い、輻射体中の光子の伝播時間の広がりによる TOF 分解能への寄与を詳細に調べた。 チェレンコフ輻射体にはフッ化鉛 (PbF2) 結晶を使用し、様々なサイズと結晶の表面処理として裸 の状態及び黒インクやテフロンシートで覆った状態で測定を行った。その結果、最も良い TOF 分 解能として、サイズが 5 × 5 × 5 mm^3 で、表面を黒インクで覆った状態において、121 ps(半値幅)の値が得られた。この結果をシミュレーションと比較することで伝播時間の寄与をより詳しく理解することができた。 上記で彫られた時間分解能は従来のシンチレータを使用したTOF-PET装置の時間分解能(約500ps)を上回っている。課題は、発光量の少ないチェレンコフ光の使用による効率の減少であるが、これについては、H27年度に性能調査を行った半導体型光センサー(MPCC)を使用することで解決可能と考えられる。よって、本研究により、チェレンコフ光を用いたTOF-PET装置の原理的な優位性を示すことができた。
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