研究課題/領域番号 |
15K15211
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小西 哲之 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (40354568)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中性子線 / がん治療 / 低線量率 |
研究実績の概要 |
低線量率の中性子線を繰り返し照射する新しい放射線ガン治療方法の概念の検証と成立性評価を目的として、中性子ビームの発生法と、治療法としての利用可能性についての医学的検討の両面から研究を実施した。 中性子ビームに関しては、中性子輸送計算コードMCNP5を用いて、単色のDD核融合高速中性子を減速しつつビーム化し、患部に影響が集中できるような熱外中性子に中心のあるスペクトルを得るようなビーム輸送系を設計した。基本は放電中性子源を内包し、一方が開いた円筒であるが、若干の屈曲を与えることで高速中性子の直接照射を防ぎつつ、熱外までの原則を行いながらビーム化できることを見出した。材料のスペクトルに与える影響は大きいが、鉄等の金属と、ポリエチレンや水など水素を豊富に含む物質の組み合わせがほぼ最適に近い。患部の深さにより最適中性子エネルギーは異なるが、数百~100KeV程度の範囲で制御できる見通しを得た。ビーム光学的には、数cm程度のフォーカス以上は困難であるが、これは分散した腫瘍や複雑形状にも適用でき、かつ正常組織への影響が抑えられる範囲と考えられる。 一方医学的な観点での照射法の検討では、正常細胞に確定的影響を与えない範囲の線量率で照射を多数回行うことを基本に、その頻度と期間を考察した。腫瘍細胞は放射線に感受性が高く、特に回復挙動が正常細胞に劣ることを利用し、X線照射における回復のQLモデルの報告例を適用して、一日2回、6時間間隔程度の照射で正常細胞が回復が見込めるのに対し腫瘍細胞に損傷が蓄積する領域が存在することを見出した。これを最大3か月継続することで蓄積線量はBNCTの一回分相当に達するため、十分照射効果が蓄積するならば治療効果が期待できる。一方この照射パターンは、実際の入院加療への適用性も高いと考えられる。 以上の結果から、研究の当初目的の大部分は見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果は順調に得られているが、ビーム光学系、輸送系の設計検討と、中性子発生実験の双方を並行して実施する当初計画であったが、作業と資源の効率化のために、設計による中性子ビームの最適化を先に実施し、それに合わせた装置を製作して実際の中性子ビーム発生実験を行う手順に変更した。そのため研究資金の一部を28年度に繰り越し、中性子ビーム発生実験を行う計画である。以上により、研究計画を2年間に延長したものの、課題の進捗の観点では順調であり、期待した成果が順調に得られており、また完了時には当初の目的が達成できる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、今年度の研究課題の中心は、小型中性子ビームの発生実験である。小型重水素放電管を内包するビーム装置の概要設計は既にできており、可搬性で横臥状態の患者の周囲を取回して照射できる線源の原型として試験可能である。これを製作し、放電特性をガス圧力、電圧、電流をパラメータに測定して適切な放電領域を実験的に確認するとともに、必要な中性子発生量の得られる条件を探る。一方、中性子数を実測し、そのビーム光学特性とエネルギースペクトルを測定して、27年度に得た数値解析と比較することでビーム発生を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に中性子輸送解析と放電中性子源の開発を平行して行う予定であったが、QLモデルによる腫瘍細胞の低線量率照射からの回復特性にエネルギー依存性が大きいことを推測する知見が別途得られた。放電管とビーム光学系で構成する装置について、特にスペクトル制御性に着目した装置を製作してビーム発生実験を行うように計画を変更して、最適配位での実験を28年度に行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
中性子源構造と材料をパラメータに熱外領域の詳細な中性子輸送解析を行った後に、その結果に基づいた最適配位の装置を設計製作し、中性子ビーム発生の実験を行う。
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