低線量率の中性子線を繰り返し照射する新しい放射線ガン治療方法の概念の検証と成立性評価を目的として、中性子ビームの発生法と、治療法としての利用可能性についての検討を引き続いて実施した。 特に今年度は、放電中性子源の開発とその実験を中心課題として実施した。MCNPコードによる中性子輸送計算により、DD核融合反応による最大2.45MeVまでの中性子エネルギーでは、生体内に照射したときにエネルギーが高いほど散乱が少なく、収束性が良いことを見出した。生体内10cm程度以上の患部深さが想定される場合、発生する高速中性子のままでビーム化し、収束状態で減速しながら患部に到達させる。このためには、反射体の原子番号が高いほうがよいが、グラファイトないしアルミニウムがそれぞれ減速、非減速目的に適することがわかり、安価な材料で必要スペクトルが得られることがわかった。 一方実験的には放電条件と中性子発生数との 関連を検討し、陰極にはチタン金属を蒸着して重水素濃度を高めることで中性子数を必要レベルに増加できることが明らかになった。最適チタン厚さは数μmで、30keV程度の放電電圧でのイオン侵入深さに対応するところまで重水素濃度を上げられることが、重水素濃度分布の測定から明らかになった。放電電圧と電流、重水素ガス圧の間には放電を維持しつつ中性子発生を最大とするための関係が存在し、それらの相互依存性を放電特性として測定した。一般にガス圧が高いほうが大きな放電電流が得られるが、荷電交換によりエネルギーが下がるため中性子発生率は上昇せず、1Pa程度で電圧電流を最適化することで中性子発生が最大となる領域がある。 以上の結果から、昨年度の成果と合わせ、当初目的である低線量率照射における腫瘍細胞と正常細胞の回復率の差を用いた反復照射に適した放電型ビーム中性子源の構成法を確立し、当初目的を達成した。
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