研究課題/領域番号 |
15K15215
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡村 昌宏 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 客員研究員 (80332245)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レーザー / 陽子ビーム / ハドロンテラビー / レーザーアブレーション / イオン源 / 加速器 |
研究実績の概要 |
本年度は2つの側面から効率の良い陽子ビームをレーザーアブレーションで発生する研究を開始した。 1.これまで行われてきたレーザーアブレーションを使ったイオン発生装置研究では、主に数ナノ秒のパルス幅を持つレーザーが使われてきた。レーザープラズマが十分な熱平衡状態に移行するためにはナノ秒の加熱時間が必要だと考えられており、これは多価イオンを発生する事を前提にすると必要な条件である。しかし、本研究で扱う陽子は一価のみのイオンであり、長時間の加熱を必要としないので、短時間のパルス幅を持つレーザーを使用することが可能である。ハイドライトターゲットの問題点はターゲット材質の脆性にあり、発生したプラズマから放出される熱による損傷を短パルスレーザーを採用することによって少なく出来ると考えられる。そこで、サブナノ秒のレーザーを用いてプラズマ発生実験を行った。その結果、短パルスレーザーを用いることの優位性が実証された。研究結果は国際会議で発表し、学術誌にも掲載された。 2.ハイドライトは脆性のため、板状のチタンなどを水素化しても粉末になってしまう。一般に行われているように炉に基盤材を入れて全体を温めて水素化するのではなく、表面だけ高温にする方法を新たに考案し、検討を開始した。基盤材質の表面層だけを高温化するためにレーザー照射によってその層だけを瞬間的に加熱すれば良いと考えられる。そこで、レーザーの照射する条件について基礎的な計算を行った。一般に、固体物質がプラズマ化するためには10E8w/cm2 のパワー密度が必要となるがそれ以下の条件ではほとんど損傷が起こらないことが予測された。加熱には汎用のナノ秒レーザーが適していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サブナノ秒レーザーを用いたイオン発生は今まで行われていなかった。特に本研究で行ったように一価イオンを発生することに特化した研究は初めての試みである。ハイドライト粉末を圧縮し比較的面積の大きい固体ターゲットを作る過程で条件探索に時間がかかったものの、深刻な障害に直面すること無く実験的に成功し、誌上発表を行うまでに至ることが出来た。従ってレーザーの照射条件探索に関しては非常に順調に進展していると言える。ターゲットの水素化に関しては、従来確立された製作法に従い炉を製作する予定であったが、レーザーを用いて表面層のみを水素化させ、大面積をもつ長寿命ターゲットを製作する目処がついた。従来の問題点を克服できる全く新しい方法であり、次年度における実験準備として順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はチタンの板材を用いた表面層の水素化実験から開始する。真空槽を準備し、1ジュール程度のYAGレーザーを集光径10ミリ程度で水素雰囲気中でチタン表面に照射する。均一な加熱を実現するためには、レーザーのプロファイルを均一化する事と、ターゲットを任意の位置に移動させるためのステージを製作する必要がある。限られた予算枠では、レーザーの詳細なプロファイルを測定する装置を導入することは難しいので、感熱紙等を用いてこれを行い、レーザーの走査パターンを考慮することによって均一な加熱を目指す。ターゲットのサンプルを数種類製作し、プラズマの発生実験を行う。 製作したターゲットを加速器用イオン源に装着する事を目指して、ターゲットの支持機構を設計する。その後、陽子ビームの発生・加速実験を行い、高繰り返し運転に対応可能は炭素、陽子共用のイオン発生装置の実用化への道筋を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
水素化の為にヒーターを装着した真空槽を製作する予定であったが、レーザーを照射することによって標的材質の表面層だけを高温化する方法を考案したため、レーザー光が導入できる新たな真空槽のを設計する事になった。これにより、当初の予定よりも一歩進んだな研究目標に挑戦することとなる。レーザー照射水素化を達成するために、出来る限りの予算を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな真空槽とその中に装備する走査装置、及びそのための光学部品の購入に充てる。
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