本研究の目的は、疫学・公衆衛生学研究の成果を社会に還元する際の科学コミュニケーションのあり方を提言することである。そのために、国内外の研究倫理指針、国内外のプロジェクトの開示・公表方針、結果開示による社会的影響に関する過去の事例を整理すること、および、一般市民における研究成果の公表についての意識について検討をおこなった。 わが国の医学系研究の倫理氏指針には公表の方法を研究計画やインフォームド・コンセントに記載するように求めているが、その具体的な方法までは言及していない。一方で、研究ファンド側は科研、厚生労働科研いずれも成果発表会を事業として盛り込んでおり、原則、一般公開の発表会となっている。米国では、多くの研究プロジェクトがアウトリーチ活動として、研究機関、ファンドエージェンシー各機関との連携で積極的に一般公開の成果発表会を行っており、ホームページで公表されている。 一般市民に対する成果公表の意識については、2012年に我々が実施したゲノム研究に関する一般国民に対する調査を用いた。その中で、結果の開示の希望や参加する際の条件としての結果の開示について質問した。その結果、若い人、科学リテラシーが高い人ほど結果を知りたい傾向にあり、研究参加の条件は、個人情報保護、侵襲が少ないことと並んで結果の開示が最も多かった。現在、2017年に実施した国民に対する調査では、おおむね2012年度と同様の結果を得た。 さらに、フォーカス・グループインタビューでは子どもが参加する研究についての結果の開示の問題、親の関心事と公衆衛生的重要性とのギャップなどについて検討した。また、社会への影響のモニタリングの仕組みや相談窓口の設置を検討する際に、研究プロフェクトは期限があることを考慮した仕組みの検討が必要である。
|