本研究ではPCR-based ORF Typing (POT法) を用いることで、長野県内で検出されたMRSAの遺伝子解析を行い、県レベルでのMRSAの伝播様式の解析を行った。 平成27年度は、2015年9月1日から9月30日までに長野県内の42施設で堅守されたMRSA365株の収集を行い、遺伝子解析を行った。平成28年度は2016年8月1日から9月30日までに長野県内の52施設で検出されたMRSA949株の収集を行い、遺伝子解析を行った。遺伝子解析の結果はPOT値として集計した。平成29年度は、平成27年度および28年度に収集及び遺伝子解析を行った結果から、同一由来株の可能性がある株の水平伝播を検討した。 長野県は大きく4つの地域に分けられる。長野県内で行われているサーベイランスの結果で、分離されたStaphylococcus aureus に対してMRSAの占める割合は中信地区、南信地区で多く、東信地区、北信地区で少ないことがわかっている。北信地区と東信地区とでは流行株の傾向に統一性は見られなかった。その一方で、中信地区と南信地区とではMRSAの流行株に同じ傾向がみられらた。また、各地区の分離された同一POT値のMRSAの数を見ると、南信地区において1種類のMRSAが分離MRSAの35%を占めていることが確認された。このことは、南信地区においてMRSAの水平伝播が多く起こっていることが示唆され、その結果MRSAの分離頻度が高いと考えられた。 年次変化では、2015年に分離数が上位の株は、2016年でも多く分離されている一方、2015年には長野県内でほとんど分離されていないが2016年に分離数が増えている株が存在していた。さらにその株は一つの病院だけではなく、長野県内の複数の病院で分離されていた。このことは、ひとたび新規MRSAが長野県内に入ってきた場合には、病院を超えて水平伝播することを示唆している。
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