研究課題/領域番号 |
15K15242
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
増田 光治 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (10305568)
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研究分担者 |
友杉 真野 (堀中真野) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80512037)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん予防 / 大腸がん / 喫煙 |
研究実績の概要 |
がん予防介入研究で、喫煙者ではβ-カロテンやアスピリンなどの予防物質摂取によりむしろ発がん頻度が増悪するという結果が複数報告されている。しかし、その原因について未だ明確でない。そこで、がん予防介入研究において認められた喫煙と予防物質による発がん促進機序を解明する目的で、培養細胞系を用いて予防介入研究結果を再現できるかどうか試みることとした。増悪機序は、細胞レベルから個体レベルまで種々のレベルで考え得るが、細胞レベルで増悪機序を再現できれば、その簡便性から迅速に介入研究における予防物質の負の影響を排除する事ができ、非常にメリットがある。 平成27年度は、近年の介入試験報告を参考に、アスピリンによる大腸がん予防介入研究での喫煙による発がん増悪現象を培養細胞系で再現することを目指し、発がん初期の状態をより反映した大腸がんモデル細胞としてLIM1215を選択し、タバコの煙濃縮物(CSC)とサリチル酸(アスピリンの主代謝物)を共存させた環境で長期培養し、その結果として細胞増殖促進を示すかどうか検証している。単独では顕著な細胞増殖抑制もしくは細胞死を起こさない条件での影響を検証するため、サリチル酸添加濃度はヒト最大血中到達濃度とし、CSC添加濃度はコロニー形成試験などで増殖抑制を殆ど示さない最大濃度を選択した。現時点で30回程継代しているが、明確な増殖能の亢進を認めていない。 なお、LIM1215はミスマッチ修復遺伝子の異常およびWnt-β-カテニン系の異常以外には他の主要ながん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異が報告されておらず、正常から発がん初期状態、即ち予防介入研究対象者の状態を反映していると考えられる。 増殖能亢進による増悪現象を再現できれば、次年度以降、その細胞を用いて増殖シグナル系など細胞内イベントを解析することで作用機序を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年の介入試験報告を参考に、まず、アスピリンによる大腸がん予防介入研究での喫煙による発がん増悪現象を培養細胞系で再現することを目指し、発がん初期の状態をより反映した大腸がんモデル細胞として、LIM1215を選択した。この細胞株はWnt-β-カテニン系の異常以外には他の主要ながん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異が報告されておらず、正常から発がん初期状態、即ち予防介入研究対象者の状態を反映していると考えられる。LIM1215の短期的な増殖に対するアスピリンの主体内代謝物であるサリチル酸もしくはタバコの煙濃縮物(CSC)を検討したところ、CSCは濃度依存的な増殖抑制を示した。サリチル酸はヒト血中到達濃度の数百倍でも殆ど細胞増殖に影響がなかった(この結果は他のがん細胞株での報告とも良く一致する)。 この結果から、単独では顕著な細胞増殖抑制もしくは細胞死を起こさない条件での影響を検証することとし、サリチル酸添加濃度はヒト血中到達濃度とし、CSC添加濃度は細胞増殖抑制を殆ど示さない最大濃度を選択した。LIM1215を、継代時にサリチル酸、CSCもしくはその両方を添加しながら長期培養している。一定回数継代後、各薬物処理細胞に足場非依存性コロニーを形成させ、その細胞増殖能を比較している。現在、長期継代しながら、細胞増殖能を比較しているところであるが、まだ明確な細胞増殖能の差を見いだせていない。 もう一細胞株、発がんに至るごく初期を再現できる細胞株と期待した大腸の正常細胞由来の不死化細胞株FHCについて、長期継代を目的に検証したが、低濃度のDMSO(薬剤の溶解基剤)で増殖阻害を起こしたり、増殖が極端に遅いなど、本研究計画には不向きであると結論し、以下の実験では用いないこととした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、大腸癌細胞株LIM1215を、サリチル酸、CSCもしくはその両方を添加した状態で長期培養しながら、定期的にそれぞれ足場非依存性コロニーを形成させ、その増殖能を比較しているところである。 平成28年度も、継続して長期培養を行い、細胞増殖能に差が生じるかを検証していく。増殖促進を示す細胞が見つかった場合、一部は同様の条件で継続培養し、培養時間依存的に増殖能の差が大きくなるかを検証する。並行して、増殖能に差を生じた継代数の細胞株を用いて、通常培養している細胞を比較対象としつつ、その作用機序を検討する。具体的には、RBタンパク質の活性化状態を中心に増殖シグナル系活性化をWestern blotting法で検証する。またNSAIDsやタバコ成分は、炎症シグナルの活性化や細胞内酸化ストレスの増強を起こすことで細胞増殖促進に関与することが知られているので、炎症シグナル活性化はNFκB 経路を中心に、細胞内酸化ストレス強度変化はNrf2タンパク質増減を中心にWestern blotting 法やRT-PC法で測定し、その関与を検討する予定である。更に、Nrf2関連分子に変動を認める場合は、産生される活性酸素量を測定・比較する。順当に増殖能亢進、及びその分子作用機序を細胞レベルで検証できれば、更に発がんモデル動物を用いて個体レベルでも検証する。
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