27年度に引き続き、近年臨床疫学データで報告されているアスピリンと喫煙による発がん増悪現象を細胞レベルで再現することを目指して、アスピリン及びたばこの煙成分と共に大腸がん細胞株を長期培養し、足場非依存的増殖能を指標とした増悪現象の検証を行った。 即ち、大腸がん細胞株LIM1215(Wnt-β-カテニン経路異常、ミスマッチ修復遺伝子異常、その他主要ながん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異報告無し)を用いて、(1)事前にコロニー形成抑制試験で確認した細胞増殖抑制作用を殆ど示さない濃度のタバコの煙濃縮物を添加する、(2)アスピリンの主要体内代謝物であるサリチル酸をヒト血中到達濃度で添加する、(3)(1)及び(2)と同じ濃度でタバコの煙濃縮物とサリチル酸の両方を添加する、もしくは(4)溶剤であるDMSOを添加する、という各条件下で長期培養を行った。添加物は毎回継代時に添加した。経時的に、一定細胞数を用いてソフトアガーによる3次元培養を行い、4つの培養方法により足場非依存的増殖能が変化するかどうか、即ちタバコの煙濃縮物とサリチル酸の共存培養により、他の3つの培養方法よりもコロニー形成数が増えるか否か、を検討した。 しかし、45回以上継代を繰り返したが、4つの培養方法でコロニー形成数に明確な差は認められず、今回検討した培養条件下では疫学データが示すような喫煙とアスピリンによる発がん増悪現象を再現することが出来ないと結論するに至った。また、そのため、増悪現象に関係する分子や細胞内イベントの解析による機序の解析を行うことも不可能であった。
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