研究課題/領域番号 |
15K15243
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
堀口 兵剛 北里大学, 医学部, 教授 (90254002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カドミウム / 銅 / ラット |
研究実績の概要 |
カドミウム(Cd)は環境中に広く存在する有害重金属であり、食物より体内に取り込まれ、腎臓中に蓄積する。腎臓中Cd濃度は加齢とともに上昇するため、過剰のCd摂取を続けていると高齢で近位尿細管障害(カドミウム腎症)が発症し、さらに骨軟化症や貧血(イタイイタイ病)が続発する危険性がある。今日では鉱山や製錬所由来の富山県神通川流域や秋田県のCd汚染地域でカドミウム腎症患者が存在する。 Cd中毒では近位尿細管障害によりmetallothioneinという分子量の小さな蛋白質に結合した形での銅の尿中への排泄が増加し、血中の銅のレベルも低下する。従って、Cd中毒では栄養不良などにより銅の欠乏状態が惹起されて種々の含銅酵素の活性が低下し、病状が増悪するという機序が考えられる。そこで、本研究はカドミウム腎症患者の病状悪化の予防のための食生活についての保健指導や治療などに直接役立てることを目的に、低銅食飼育下でCdを投与したラットを用いた実験により、Cd中毒の発症における銅欠乏の関与を解明する。 ラットを通常の餌及び低銅食の餌で飼育しながら、Cdを 1mg/kgの投与量で週に1回皮下注射した。対照群には生理食塩水を同様に投与した。3カ月後に代謝ケージを用いてラットの24時間尿を採取した。尿検体は尿量測定、試験紙による一般検査、比重測定の後にチューブに分注して冷凍保存した。その後、ラットを麻酔下で解剖し、末梢血と臓器を採取した。末梢血は、自動血球計算機により赤血球数等の貧血指標を測定し、金属測定用全血と血漿を分注して冷凍保存した。臓器は重量の測定後、RNAの抽出、パラフィン包埋標本の作成、組織の冷凍保存を行った。 Cd投与群では尿量が増加しており、近位尿細管障害が確認できた。低銅食飼育だけでは貧血はなかったものの、それにCd投与が加わるとCdによる貧血惹起作用が増強される傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、平成27年度では低銅食飼育下でラットにCdを長期投与して血液、尿、臓器の検体を採取して保存し、平成28年度ではそれらの検体を用いて全血・血漿・尿・臓器中の金属濃度測定、血漿・尿・臓器の生化学検査、臓器中mRNAの発現量の測定、病理学的検索(組織中の蛋白質やmRNAの発現の観察)を行うという予定を立てた。 平成27年度は上記の予定通りに動物実験を実施し、通常餌飼育下での生理食塩水投与群、通常餌飼育下でのCd投与群、低銅食飼育下での生理食塩水投与群、低銅食飼育下でのCd投与群、の4群(各群9匹)の検体を得ることができた。しかも、Cd投与群では近位尿細管障害を意味する尿量増加が見られ、銅欠乏とCd中毒の貧血に対する複合影響を示唆する結果も得られているため、目標に適った非常に良好な検体が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、研究計画の予定通り、昨年度に得られた検体を使用して、原子吸光光度計による全血・血漿・尿・臓器中のCd、銅、鉄、亜鉛、等の金属濃度測定、腎機能や貧血に関連する血漿クレアチニン、尿中アミノ酸、尿中NAG、血漿鉄、血漿フェリチン、等の生化学検査、リアルタイムPCRによるmetallothionein、含銅酵素(lysyl oxidase、ceruloplasmin、hephaestin)、銅トランスポーター(CTR1、CTR2等)、銅シャペロン(ATOX1、CCS等)、等の臓器中mRNAの発現量の測定、病理学的検索(HE染色、免疫組織染色、in situ hybridization)を行う。 これらの結果を総合的に解析し、Cd中毒の発症における銅欠乏の関与について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はほぼ研究計画での予定通りに実験が進み、従って研究費の使用もそれに応じてほぼ予定通りに使用することができた。しかし、若干の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には種々の測定のために必要な試薬の購入に使用する予定である。
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