カドミウム(Cd)は食物より体内に取り込まれ、腎臓中に蓄積する。腎臓中Cd濃度は加齢とともに上昇するため、過剰のCd摂取を続けていると高齢で近位尿細管障害(カドミウム腎症)が発症し、さらに骨軟化症や貧血(イタイイタイ病)が続発する危険性がある。Cd中毒では近位尿細管障害によりメタロチオネインという低分子量の蛋白質に結合した形での銅の尿中への排泄が増加するため、銅の欠乏状態が惹起されて病状が増悪するという機序が考えられる。従って、Cd中毒に対する低銅食飼育の影響をラットで観察した。 ラットを通常の餌及び低銅食の餌で飼育しながら、Cdを 2mg/kgの投与量で週に1回皮下注射した。対照群には生理食塩水を同様に投与した。3カ月後に24時間尿、末梢血、臓器を採取した。 Cd投与群では尿量、NAG、メタロチオネインの尿中排泄量が増加しており、近位尿細管障害が明らかであったが、それに対する低銅食飼育の増悪影響は見られなかった。一方で、Cd投与群では血漿クレアチニンの上昇及び尿中蛋白質の排泄量増加などの腎糸球体機能への影響も確認できたが、低銅食飼育により尿中蛋白質の排泄量がさらに増加していた。しかし、腎臓のHE染色病理標本では形態学的な変化は認められなかった。従って、Cdの腎機能障害は銅欠乏状態により若干増強されることが判明した。 Cd投与群では腎臓から産生される造血因子であるエリスロポエチンや鉄の血漿中濃度の低下を伴う貧血も進行していたが、それに低銅食飼育が加わると統計学的に有意ではないが若干貧血の程度が強くなる傾向が見られた。従って、Cdによる貧血惹起作用は銅欠乏状態によってわずかではあるが増強する作用があることが示唆された。 今後の課題として、さらに長期のCd投与による腎障害に対する銅欠乏の影響を観察する必要があると考えられた。
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