研究課題/領域番号 |
15K15249
|
研究機関 | 大阪府立公衆衛生研究所 |
研究代表者 |
吉光 真人 大阪府立公衆衛生研究所, その他部局等, 研究員 (70321940)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(SEs) / 酵素消化 / LC-MS/MS / ペプチド / 食中毒 |
研究実績の概要 |
黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(SEs)には食中毒の原因となる11種の抗原型が存在する。しかし、市販キットでの免疫学的検出法では5種の検出、定量に限られる。そこで、SEsを酵素消化して生じるペプチドを測定対象とし、ペプチド固有の質量を指標に測定可能な質量分析計を用い、SEs全11種を定量することを考えた。本研究では、液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)という高性能質量分析計をSEs測定に導入し、食中毒の原因となるSEs全11種を定量することで、SEs食中毒の実態を解明することを目的としている。 本年度はSEsのうち、市販されていたSEA, SEB, SEC(SEC1~SEC3), SED, SEE, SEH, SEJを購入し、酵素消化条件およびLC-MS/MS分析条件を検討した。SEsは消化酵素抵抗性のため、一般的な酵素消化条件では消化が不十分であった。そこで、酵素消化促進剤と消化酵素を組み合わせた消化条件を検討したところ、SEJ以外でペプチドのシグナルを得ることができた。 得られたシグナルを MASCOT serverのMS/MS Ion Searchを用いて解析し,酵素消化液中の個々のSEsペプチドシークエンス情報を得た。ペプチドの特異性をprotein blastで確認後、MRMトランジションを設定した。個々のSEs 消化物を設定したMRMで分析し,SEsごとにレスポンスが大きいペプチド3種およびそのトランジションを選定した。全てのSEsのMRMメソッドを統一し、SEA~SEE, SEHの一斉分析条件とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一年目の計画のうち、SEsの一斉分析条件については確立した。しかし、消化酵素抵抗性のSEsに対する酵素消化条件の検討に時間を要したため、一斉分析条件で得られるSEs定量値の免疫学的検出法との比較、およびSEs毒素遺伝子を保有する黄色ブドウ球菌培養上清中のSEs測定を行うことはできなかった。今後、速やかに検討を実施したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、一年目の計画の未実施部分を速やかに検討する。その後、食品からのSEs抽出精製法の検討を行い、食品中のSEs分析法を確立する。 免疫学的検出法は定量範囲は狭いが、他のタンパク質検出法と比較して感度は非常に髙い。そのため、LC-MS/MSを用いた分析法で免疫学的検出法と同等の検出感度を得るには、SEsの濃縮が必要であると予想される。SEsは他のタンパク質と比較し、熱や酸、アルカリ等に安定なため、これらの処理を用いながら濃縮法を検討する予定である。また、食品成分が残存していた場合、LC-MS/MSの感度に悪影響をおよぼす可能性が高い。そこで、タンパク質抽出液および酵素消化物に対する固相精製法を検討し、食品成分の除去を試みる。食品中のSEs分析法を確立した後、当所で保管されている黄色ブドウ球菌食中毒の原因食品についてSEsを測定し、SEsの種類や発症毒素量の調査を行う。 平成29年度には、市販標準品のないSEs5種(SEG, SEI, SER~SET)のリコンビナントタンパクを作成し、機器分析条件を確立する。SEs5種の分析条件を既存のSEs一斉分析条件に追加し、食中毒の原因となる11種のSEs一斉分析条件を確立する。食品中のSEs抽出精製法と11種SEs一斉分析条件を組み合わせ、黄色ブドウ球菌の毒素産生条件等の研究を行い、SEs食中毒の実態解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度計画のうち、SEsの一斉分析条件については確立した。しかし、消化酵素抵抗性のSEsに対する酵素消化条件の検討に時間を要したため、一斉分析条件で得られるSEs定量値の免疫学的検出法との比較、およびSEs毒素遺伝子を保有する黄色ブドウ球菌培養上清中のSEs測定を行うことはできなかった。これらの実験で予定していた予算額が残額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度当初より、一年目の計画の未実施部分を実施するため、前年度残額予算を執行する。その後、食品からのSEs抽出精製法の検討を行い、食品中のSEs分析法を確立後、食中毒残品の調査を行う。これらの検討で平成28年度予算を執行する。
|