本研究はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA :methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の空気を介する院内感染の伝播を明らかにするのが目的で行われた。信州大学医学附属病院入院中の患者で、MRSAが検出された患者のベッドサイド周囲の空中浮遊菌を、空中浮遊菌サンプラー(Air Bio Sampler II)を用いてエアーサンプリングを行う予定であったが、対象患者の設定ができず、エアーサンプリングが行えなかった。延長期間最終年度(平成30年度)はMRSAのみで対象患者の設定ができていないので、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE: vancomycin-resistant Enterococci)や多剤耐性アシネトバクター(MDRA : multi-drug resistant Acinetobacter)などの環境を介して水平伝播しやすい薬剤耐性菌が検出された場合にも適応菌種を拡大して、エアーサンプリングを行う予定であったが、延長期間最終年度にはこれらの薬剤耐性菌の新規発生事例もなく、やはりエアーサンプリングが行えなかった。 これにより、検出された薬剤耐性菌の株は薬剤感受性および遺伝子学的背景も検索し、患者と空気中の薬剤耐性菌の相同性は自動細菌タイピング装置 DiversiLabもしくはPOT法を用いて確認すること、また、電子カルテシステムより検体採取部位、当該患者の抗菌薬の使用の有無、呼吸器症状の有無、基礎疾患の有無等を調査し、薬剤耐性菌が空気中に散布されるリスク因子を探るという当初の目的が達成することができなかった。
|