黄色ブドウ球菌は主要な院内感染原因菌であり、人口の約20-30%が保菌しているといわれている。90年代後半には壊死性肺炎や多臓器不全等を引き起こす強毒性市中獲得薬剤耐性株が出現し、公衆衛生・保健医療における脅威となりつつある。薬剤耐性菌の蔓延する現代社会においては保健施設等における感染を未然に防ぐ院内感染対策が不可欠であり、より高い感染予防の開発が急務である。我々は金属ナノ粒子、特に化学的に非常に安定している白金ナノ粒子含有溶液に着目し、衛生保健施設や病院内等に適用できる感染予防法の開発目指し調査を進めている。プラチナナノ粒子(Pt-NP)含有溶液の黄色ブドウ球菌に対する殺菌作用の検討、市販培養細胞に対する細胞傷害活性の検討に続き、黄色ブドウ球菌・黄色ブドウ球菌と共にPt-NPに暴露させた各種細胞の炎症性サイトカインを含むサイトカイン各種の産生の調査を行った。まずは薬剤感受性黄色ブドウ球菌209p株とVISA(vancomycin-intermediate resistance)Mu50株に対する殺菌能の検討を行ったところPtNPは特にメチシリン耐性株に対してより強い殺菌能を示すことが示唆された。市販培養細胞に対する細胞傷害活性の検討としては、鼻腔粘膜細胞、骨芽細胞、微小血管内皮細胞への細胞傷害を検討した。各培養細胞にMOI=50となるように各菌株を20時間暴露したものと上記検体に同時にPtNPを添加し暴露させたものの細胞傷害を観察したところ、Pt-NPのみの暴露では細胞傷害が見られなかったことから、Pt-NPはヒト細胞に対して細胞傷害活性が低いことが考えられる。さらに炎症性サイトカイン産生がPt-NPの同時添加により低下することから、黄色ブドウ球菌によるヒト細胞に対する炎症を抑制することが考えられる。今後実用化に向けて長期毒性を含めた更なる検討を遂行する予定である。
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