研究課題/領域番号 |
15K15257
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
岩本 英久 呉工業高等専門学校, 機械工学分野, 教授 (40232714)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 外科手技教育 / 運針術 / 人間工学 / 医療の質 / 内視鏡下 |
研究実績の概要 |
平成28年9月に九州大学で開催された日本機械学会2016年度年次大会にて「手術用彎曲針を用いた直線的な刺入動作による医原性損傷に関する研究」と題して、口頭発表した。本発表は平成27年度に実施した研究成果の内、手術器械の形状から導出される理想的な動作設計例として、運針術における刺入動作のモデル化と医原性損傷量を考慮して、医原性損傷量の少ない動作例を提案し、公表した。学会会場のフロアからは意見としては、引抜き動作の検討が期待されることと、実験室ベースの解析であることが指摘され、今後の研究発展の必要性が指摘された。 平成29年3月に大阪産業大学で開催されたMedical Art Expert研究会セミナーでは「基本手術手技の動作解析に関する研究」と題して、平成27年度に実施した基本手術手技に関するアンケートの結果とその分析結果を口頭発表した。 これらの発表により、臨床に近い状況で実験する必要性と、動作精度の適正化が課題であることが指摘された。臨床に近い状況とは、被運針組織が工業用スポンジであることや、針種類が角針ではなく丸針であることなどであり、また、動作精度の適正化については、例えば刺入角度の再現について、刺入角76.5°が理想的な角度であるが、そのような3ケタで示される角度を外科医が再現できるかどうかについて疑問であるなど、今後の教育システムを開発するに当たり、重要な助言が多く寄せられた。 平成27年度までに、医学部教育におけるアンケート調査を行い、基本手術手技の教育状況を把握した。平成28年度は、動作の質に関する評価方法を考案するために、すでに開発され、市場に供給されている手術手技に関する教育システムを調査した。また、いままでにモデル化した運針動作における直線動作を臨床に近づけ、これから開発する教育システムを臨床環境に近づけて評価を行うための研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成28年度は連携組織を立ち上げるために、アンケートに協力してくれた外科医(香川大学医学部や北海道大学医学部、広島県立病院)にヒアリングを行った。ここでも本研究における実験環境を臨床条件に近づけることが肝要であることが指摘された。また、外科医は多忙で、すでに手術手技を研究する研究組織が複数構築されているため、本研究のための連携組織を別に構築する必要性を感じていないことも明らかになった。また、動作の質に関する評価方法を考案するために、すでに開発されている内視鏡下運針術教育システムを調査した結果、運針した後の縫合結果(液漏れなど)を評価しているが、運針動作過程をトレーニングするシステムではなかったため、今後の開発目標として、運針動作軌道を適切な動作に修正することが重要であり、研修生ではなく医学部生に対して、内視鏡下の運針術をトレーニングする機器を開発することが明確になった。また、各学会等で指摘された点を克服するために、ロボットを用いた運針実験において使用していた角針を丸針に変更し、より臨床環境に近づけるために、大動脈縫合を想定し、血管壁に対して直線的な刺入動作における医原性損傷量を推定し、動作設計を行った。 運針動作の標準化と運針術習得システムの開発ができなかったが、内視鏡下の持針器や縫合針の位置を3台のCCDカメラで計測する画像処理システムの開発と被運針組織に加わる負荷を計測するシステムを考案した。
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今後の研究の推進方策 |
運針動作の標準化として理想的な刺入動作の設計は構築できたので、引抜き動作の設計を行い、熟練外科医の助言に基づき、外科医の動作を理想的な動作に近づけるための内視鏡下運針術習得システムを構築する。そのために運針動作によって被運針組織に与える負荷と縫合針の位置関係から、外科医に助言するシステムを開発する予定である。 システム開発のために、内視鏡用手術道具、トレーニングボックスやCCDカメラを購入する。手術道具を非接触で位置計測する画像処理システムと被運針組織に加わる負荷を測定するシステムのアプリケーション化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にシステム開発を計上していたが、その主な費用は手術用器械などの購入ととアプリケーション化の費用であり、研究の進捗が遅れ、支出できなかった。研究の進捗が遅れた理由は、当初検討していたシステムでは、「実験環境」とみなされていることが明らかになり、より臨床条件に近づける工夫が求められ、教育システムの再考に至ったためである。また、平成28年度に開発された手術手技教育システムがあり、その差別化を行うためにも、外科医の動作を修正できるトレーニングシステムの構築が要求されたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
内視鏡下の手術用器械やCCDカメラの購入(物品費)と、非接触で縫合針などの位置計測ができる画像処理システムの開発と器械が組織に負荷する力を計測するシステムの開発として、それらをアプリケーション化するための費用(その他)を計上する。また、助言を得るために北海道大学医学部やシステム開発の助言を得るために東京などに打合せるための旅費を計上する。また開発システムの検証として、外科医や医学部生への謝金やデータ解析のための人件費を計上する。
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