法医学において、脳損傷が内因性疾患或いは外傷性損傷に起因するのかについて鑑別することは重要である。本研究では中枢神経の炎症や消炎に関与するシクロオキシゲナーゼ(COX)1及び2が内因性・外因性脳損傷鑑別診断分子マーカーとして有用であるか検討している。当該年度は、平成27及び28年度に引き続き頭部外傷モデル系を用いてCOXの発現細胞の同定、発現細胞の分布、細胞内局在及び経時的発現変化などについて詳細な検討を行った。さらに、得られた外傷性損傷脳の結果と、内因性損傷脳のCOX1及び2の発現動態とを文献的に比較検討した。 その結果、頭部外傷の損傷脳ではCOX1の発現は主に神経細胞で増加しており、主に神経細胞体及び樹状突起に局在していた。一方、COX2は神経細胞及びCD68陽性細胞で増加していた。その細胞内局在は神経細胞では、神経細胞体、樹状突起及び核膜に、CD68陽性細胞では核膜に有意な局在を認めた。即ち、COX1及び2の発現動態はそれぞれ疾患の病理学的特性を反映しており、COXは内因性・外因性脳損傷鑑別診断の分子マーカーとして有用である可能性が示唆された。 なお、当該年度は本研究の最終年度に当たり、研究成果の一部を国際誌に発表した。
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