研究課題
難病指定をされている疾患群「アミロイドーシス」の原因物質としてトランスサイレチン、免疫グロブリン(IgG)-L鎖、IgG-H鎖、アミロイドβ蛋白質(Aβ)、血清アミロイドA(SAA)、ゲルソリン、シスタチンC、等がこれまで報告されている。しかしながら、これらを物質を非侵襲的に診断するモダリティは未だ存在しない。今回の研究では、東北大学で近年開発したPositron Emission Tomography (PET)トレーサーである(11)C-labeled 2-(2-[2-dimethylaminothiazol-5-yl]ethenyl)-6-(2-[fluoro]ethoxy)benzoxazole ((11)C-BF-227)を用いて、このトレーサーがいかに「アミロイドーシス」の原因物質を可視化し、診断に役立てられるかを検討した。最初に、これらの物質に対するBF-227の前臨床的評価を行った。まずアミロイドを形成する各種の原因分子(トランスサイレチン、免疫グロブリン(IgG)-L鎖、IgG-H鎖、Aβに対するBF-227の結合特性を試験管内のcell-freeの状態で解析した。いずれの物質に対してもBF-227の高い親和性が確認された。アミロイドβを過剰発現させたトランスジェニックマウスを用いて、BF-227の各臓器に対する結合性を解析したところ、BF-227の高感度かつ高特異度での組織への結合性が確認された。次に、実際のアミロイドーシス患者ならびに健常者をリクルートして、臨床PET研究の東北大学サイクロトロンRIセンターと東北大学病院において実施した。脳、肺、心臓、腎臓、各臓器のアミロイドーシスの症例においてBF-227を用いたPETを施行したところ、各対象臓器に高い取り込みが認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
我々はBF-227を用いたPETの先行研究で、アルツハイマー病(AD)脳において本トレーサーが有意な高集積を示すことを報告した。また、トランスサイレチンの遺伝子変異を有した全身型アミロイドーシスの症例での心筋PETにおいてもBF-227の高集積を認めている。すなわち、本トレーサーが各種アミロイドーシス疾患の病態解明および正確な診断において極めて有用である可能性が示唆されている。本研究の主題はアミロイドーシス患者におけるBF-227-PET撮像であり、健常者での結果と比較し、各種アミロイドーシスにおいて種々の臓器にいかにアミロイドが沈着しているかを解析した。健常者ならびにアミロイドーシス患者におけるPET撮像が当初の計画以上にリクルートでき、充実したエビデンスが得られている。さらに、心臓、肺、腎臓の各臓器にアミロイドが沈着するアミロイドーシスの患者をアミロイドの蓄積を抑制することが示唆されている既存の医薬品を用いた縦断的介入研究を行った。アミロイドーシス患者への薬物投与の臨床研究に関しては,東北大学医学部の臨床治験研究に従事する治験コーディネーター,生物統計家の協力を得て被験者に不利益が生じ得ないように遂行した。また18F-fluorodeoxyglucose (FDG)-PETにて体内でのブドウ糖代謝を画像化し,定量解析を行った。さらにはMRIを用いの形態解析および、認知症患者においては神経心理検査 を施行し,薬剤投与群,非投与群間での認知機能の変化についても解析を行った。これまで数種の薬剤においてアミロイド沈着を抑制する効果を認めている。
今後も臨床PET研究は東北大学サイクロトロンRIセンターと東北大学病院において実施するが、研究の進行状況によっては他のPET施設との共同研究を行う可能性もある。前臨床評価は、東北大学大学院医学系研究科、東北大学臨床研究推進センター、東北大学サイクロトロンRIセンターの現有設備を用いて実施する。その際に使用する患者の病理サンプルは共同研究先である福祉村病院から提供を受ける。アミロイドーシス患者への薬物投与の臨床研究に関しては,有害事象の発生時の対応も含めて、研究が円滑に行われるように最大限の注意を払い計画を遂行する。薬物の投与前後でBF-227-PETを施行し、アミロイドの沈着について薬剤投与群と無投与群の結果と比較検討を行なう。体内アミロイド蓄積の解析に加えて18F-fluorodeoxyglucose (FDG)-PETにて体内でのブドウ糖代謝を画像化し,定量解析を行う。さらにはMRIを用いの形態解析および、認知症患者においては神経心理検査(Mini-mental state examination, ADAS-cog 等) を施行し,薬剤投与群,非投与群間での認知機能の変化についても解析を遂行する。アミロイドの蓄積を抑制することが示唆されている既存の医薬品を用いた縦断的介入研究を行う。投与群と非投与群間で治療前後でのアミロイド蓄積量の変化を比較検討する。すなわち、患者にインフォームドコンセントを得た上で、上記の薬剤の介入研究を開始する。また非投与群の患者にもインフォームドコンセントを得て、対照群として研究に参加してもらう。薬物治療の6ヶ月、12ヶ月後にBF-227-PETを施行してアミロイドの沈着を客観評価する。
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